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警戒対象は暴力団…自宅と家族を守る「私邸警備」の生々しい実態〜実録・ボディーガード体験談

「何かご用ですか?」 声を掛けると男は…

 2~3分して、30代くらいの男が何かを小脇に抱え、車から降りました。いわゆるヤクザの雰囲気ではなく、ネルシャツを着た普通の男性です。

 その男は、会長宅へ足早に向かいます。まだ何もしていませんが、黙って監視を続ける状況ではありません。2人で同時に近づくことにしました。

 深夜の住宅街では、小さな音でもかなり響きます。車のドアを「ガチャ」と開けた瞬間、男は跳ね上がるようにわれわれの方を振り向きました。そして、慌てて車に引き返そうとします。こちらも足早に近づき、男が車のドアノブに手をかける前に、左右から囲みました。

「こんばんは。何かご用ですか?」と声を掛けると、男はこわばった表情でわれわれの顔を見た後、「すみません…勘弁してください」と頭を下げました。こちらから何も問いかけていないのに、自ら観念したのです。男が抱えた物に目を落とすと、それはビラの束でした。

 男は暴力団員ではなく、解雇された元社員でした。クビにされた逆恨みで、会長宅と近所に中傷ビラをまくつもりだったのです。われわれのことを「刑事が張り込んでいると思った」と言っていました。警戒していた相手とは全く無関係でしたが、依頼人の意向もあり、110番通報しました。

 この案件はその後3カ月ほど継続しましたが、懸念していた襲撃はなく、無事に終了しました。拍子抜けかと思いますが、私の関わった私邸警備では、大きな事件に発展した事例はありません。

 しかし過去には、ボディーガードが射殺された事件が存在します。個人宅ではありませんでしたが、私邸警備の一種です。その案件は、既に“戦争”といえる危険な状況に突入しており、本来なら警察がガッツリと介入するべきものでした。

 今回紹介したケースでは、早い段階で警察が介入しています。多くの場合、解決には警察や裁判所の力が必要です。われわれボディーガードにできるのは、攻撃を防ぐこと。つまり、相手が諦めない限り、事態は収束しません。しかし、多くの依頼人は、仕事場よりも自宅で過ごす時間の方が長く、また自宅にいるご家族も守らなくてはなりません。そのためにも、私邸警備が欠かせないケースが多いのです。

 そのとき、現実に立ちはだかるのがコストの問題です。完璧な警備体制を実現するには、それなりの金額がかかります。よって大事なのは、警護するポイントの取捨選択です。押さえるべきポストの配置と、思い切った切り捨ては欠かせません。

 その最適解を導き出し、依頼人に提案するのがプロの仕事なのです。

(一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事 加藤一統)

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加藤一統(かとう・たかのり)

一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事

1995年より身辺警備(ボディーガード)に従事し、これまで900件以上の警護依頼を請け負う。業界歴26年。現在は、優良なボディーガード会社や探偵会社を探すユーザーに向けた無料紹介所「ボデタンナビ」を主宰。紹介だけでなく、企業のセキュリティーから家庭の防犯まで、網羅的な質問にも答えている。護身・防犯用品の設計企画を行う「タカディフェンスデザイン」も運営。ボデタンナビ(https://bhsc.or.jp/)、タカディフェンスデザイン(https://www.t-d-design.com)、公式ツイッター(https://twitter.com/bodetan)。

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