パフォーマンスを上げる「アスリートに適した食事」の考え方
頑張るアスリートを支える人が考えることの一つに「食事」があります。ここでは「筋力アップ」「持久力アップ」「減量」という目的別に、アスリートの食事のポイントを解説します。
はじめに
東京五輪・パラリンピックまであと2年ですが、「オリンピック出場」のような大きな夢はなくても、「週末の試合に勝ちたい」と日々の練習を頑張っているアスリートはたくさんいます。そして、アスリートを支えている周囲の人々は、自分に何かできることはないかと考えていることでしょう。そうした人々が意識できること、サポートできることの一つに「食事」があります。アスリートの「筋力アップ」「持久力アップ」「減量」のそれぞれに適した食事について、料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。
競技力の基盤となる筋力
アスリートはケガなどの外傷がない限り、「一般の人よりも健康で体力がある」という自信にあふれている方が多い傾向にあります。しかし、実はトレーニングによって疲労が増していたり、トレーニングの効果が思うように表れなかったりするなど、アスリート自身が気づいていない問題を抱えていることがあります。その問題を見つけるために、アスリートの競技力はどのように作り上げられているかを考える必要があります。
【基盤は筋力】
競技力はよくピラミッド型で示されますが、その土台となる部分は筋力です。次に、その筋力の備わった体で各競技に必要なスピード、敏しょう性、パワーをアップさせます。その上で、各競技の技術を身に付け、最後に戦術を考えていくことで競技力が完成するのです。
基盤となる筋力が不足すると、スピードやパワーを増すことが難しくなります。さらに、技術を身に付けられず、戦術があったとしても実行できないという小さいピラミッド型ができ上がり、競技力不足となってしまいます。
筋力不足でもう一つ考えられるのが、ケガ(故障)です。筋力が備わっていないにもかかわらず、スピードやパワー、技術を身に付けようと次のステップを踏むと体のどこかに支障をきたし、ケガの原因となります。
こうした筋力基盤こそがアスリートの競技力の根本となりますが、このピラミッドを周りから支えているのが「食事」です。
アスリートの「今」に適した食事
皆さんが支えるアスリートは現在どのような状況でしょうか。「筋力基盤をしっかりと完成させたい」「スピードを増すために減量したい」「明日の試合で勝つためのパワーが欲しい」など、さまざまな場面が考えられます。
【筋力を付けたい】
1.タンパク質だけではなく、糖質と脂質のエネルギー源を補給する
筋肉=プロテインと連想する人も多いですが、筋力を付けたい時こそ、エネルギー源となる糖質と脂質の摂取に注目してください。筋肉は筋肥大のための筋力トレーニングによって傷つくため、タンパク質による修復が必要です。しかし、その前に、体はトレーニングで消耗したエネルギーを補うことを優先します。そのため、糖や脂質が不足すると、筋肥大のために食べたタンパク質がエネルギー産生に使われることになります。タンパク質によるエネルギー産生は効率が悪い上、タンパク質に含まれる窒素を除去するために、腎臓にも負担がかかります。エネルギー補給の糖質と脂質の摂取を忘れずに行うことが大切です。
2.筋力トレーニング後の食事のタイミングは1時間以内
筋力トレーニング後の栄養補給はエネルギー源(糖質・脂質)とタンパク質です。これらを食事で摂取すると消化と吸収に時間がかかるため、30分~1時間以内の食事がオススメです。しかし、練習場から帰宅するまでの時間などを考慮すると、食事を1時間以内に取ることが難しい場合もしばしば。トレーニング後すぐに補えるように、間食を準備しておくことをオススメします。コンビニなどで手軽に買えるおにぎりやサンドイッチ、肉まんなど、糖質とタンパク質が同時に補えるとより理想的です。カットフルーツや100%フルーツジュースなどで糖質とビタミンを補うのも良い方法。間食をした時は、その後の食事量を考え、体重増加につながらないように気を付けてください。
3.タンパク質はプロテインに頼らず食事から
食事のタイミングを考えても、やはりプロテインは手軽です。消化吸収の面からも理想的であると感じている人もいると思います。確かに、プロテインは吸収が早いのですが、一方で「タンパク質の取り過ぎにつながり、腎臓に負担をかける」「プロテインが体質に合わず体調を崩す」「プロテインを飲むことで水分補給をしたつもりになり、水分不足になる(プロテイン摂取時の水分はあくまでプロテインを補給するためのものであり、水分補給にはならないため)」「消化酵素を使わないことが習慣化し、消化能力が低下する可能性がある」といったデメリットもあります。また、メインのおかずとなるタンパク質は、量的に食事による摂取が難しいわけではありません。
【パワー(持久力)を発揮させたい】
1.ビタミンB1で糖質のエネルギーをスムーズに作り出す
持久力は、競技のほとんどで必要とされるものです。試合時間が長い競技ほどスムーズにエネルギーを作り出せることが重要です。エネルギー源の代表となる糖質は、それだけではただの燃料に過ぎません。燃料に着火させることで火が燃え始めるのと同じように、糖質にも「着火剤」が必要となります。糖質をエネルギー源に変えるのはビタミンB1です。ビタミンB1が不足すると、糖質はエネルギーになることなく、体脂肪として貯蔵されます。持久力を発揮するための糖質を摂取する時は、体脂肪になることを防ぐためにもビタミンB1を同時に補うことを忘れないでください。
2.試合の3日前から糖質が多めの食事を
体内には、糖質を貯蔵するタンクが筋肉と肝臓に存在します。試合当日にそのタンクを満タンにさせるには、3日ほど前から糖質が多めの「高糖質食」をすることが必要です。一般的に、バランスの良い食事とは糖質が全体のエネルギーの60%、タンパク質が15~20%、脂質が20~25%の割合ですが、高糖質食は糖質70~80%、タンパク質10~15%、脂質10~20%とします。練習量も少しずつ低下させ、補い始めた糖質を直前練習で使い過ぎないことも大切です。
(※ただし、最近の研究では、糖質制限をして脂肪をエネルギー源にする「ケトジェニック」の方がエネルギー蓄積量が格段に多く、持久性に富むという理論が注目され始めています。現段階ではまだ「カーボローディング」の食事が主流ですが、近い将来にはケトジェニック理論が有力になることが予想されます)
3.試合当日は、試合開始3時間前までに食事を済ませる
試合当日の食事は、いかに試合時間にエネルギーを作り出せる状態にできているかということがポイントです。そのために、糖質補給を3時間前までに行います。「体内に糖質を蓄えるために、消化吸収を考慮してご飯や餅などをメインに補給する」「食事により、体温を上昇させておく」「腸内にガスがたまりやすい繊維の多い食品を避ける」「直前の高濃度の糖質補給に注意する(インスリン分泌により試合中に血糖値を下げてしまう恐れがあるため)」などに注意してください。なお、一般的なスポーツドリンクは5%程度の糖分であるため、問題なく有効に利用できます。
【減量したい】
1.減量ペースは1週間に1キログラムまで
減量は必ず計画的に行いましょう。短期間の減量は基盤となる筋肉量の低下を招き、エネルギー源として蓄えているグリコーゲン(体内の糖の貯蔵体)を枯渇させ、パフォーマンスを下げる原因となります。水分制限(ドライアウト)で行う減量法は、体温上昇や血液中の水分低下が心臓への負担につながり、危険な行為となるためNGです。
2.基本は低エネルギー・低脂肪
低エネルギーを低脂肪の食事で実現させます。ご飯などの主食で筋肉中のグリコーゲンの蓄積を図り、減量によるパワー低下を回避しましょう。牛乳も低脂肪タイプを選ぶのがオススメ。タンパク質源となる主菜は、赤身肉など脂肪分の少ない部位を選び、油を減らした調理法を選択することが大切です。
3.貧血対策を忘れずに
減量により食事量が減ると、微量栄養素を必要量補うことが難しくなります。特に鉄は、動物性食品に含まれるヘム鉄が吸収良く取り入れやすいため、脂質を含む肉や魚の摂取量を控えることが鉄不足に直結します。鉄は血液中の赤血球の生成に影響し、酸素運搬能力に関わるため、酸素を使ったエネルギー産生が乏しくなり、パフォーマンスが下がります。植物性食品からの鉄摂取を意識的に行うことが、減量と鉄不足解消のカギです。
【疲労を回復したい】
1.ビタミンCの抗酸化作用で免疫力を上げる
疲れが出始めている時は免疫力が低下し始めていることが考えられます。ウイルス感染や風邪などから回復するためには、トレーニングと同様の体力を必要とします。さらに、アスリートは大量の酸素摂取や強度の筋収縮などにより、体内に活性酸素を発生させます。鍛えられた体は、活性酸素を除去する力を一緒に備えていますが、その力だけでまかなえない時、または疲労感が出ている時は、活性酸素が体内の組織を酸化させ、傷害を引き起こす原因になりかねません。抗酸化作用のあるビタミンCの摂取は、コンディションを整えることに役立ちます。また、ビタミンEにも同様の抗酸化作用があります。
2.オフの日の食事は「いつも通り」が基本
練習がオフの日は、活動量が減るからといって、極端に食事量を減らす必要はありません。体内では傷ついた筋肉を修復し、血液を作り替え、枯渇したエネルギー源を貯蔵するなど、食事からの栄養摂取を必要としています。オフの日に体を休めることは、体内の働きをやめていることではありませんので、次の日からのトレーニングに備え、しっかりと食事を取ってください。ただし、ケガによる長期の休みの時は食事量をやや少なめにし、間食は避けるのがよいでしょう。
「食事は縁の下の力持ち」
「今がどういう時期かを見極め、それに見合った食事を取ることが、アスリートに適した食事の考え方として大切なことです。食事は縁の下の力持ちです。栄養素の役割や食べるタイミングを考慮した食事で、アスリートの皆さんのパフォーマンスが上がることを期待しています」(関口さん)
(オトナンサー編集部)
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