おでんの「ちくわぶ」は関東で定番、他ではなぜマイナー? ちくわとの違いは?
おでんの具材には地域性が見えるものもあり、とりわけ、「ちくわぶ」は関東地方では定番ですが、他の地域ではマイナーです。なぜでしょうか。

寒い日は熱々のおでんがうれしいものです。家庭で作ったり、コンビニなどで手軽に購入したりして、おでんを楽しむ人も多いことでしょう。おでんといえば、ダイコンやゆで卵などバリエーション豊かな具材が特徴ですが、中には“地域性”が垣間見える具材もあります。特に「ちくわぶ」は関東地方ではよく知られた定番の具材ですが、関西地方を中心とした他のエリアでは「知らない」「わが家のおでんには入っていなかった」「上京するまで見たことがなかった」など、なじみがない人も多いようです。
ネット上では「だしを吸ったちくわぶが大好きです」「ちくわとはどう違うの?」「関東でだけ定番なのはどうして?」など、さまざまな声が上がっています。地域によって認知度に大きな差がある「ちくわぶ」の謎について、料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。
原料は「強力粉」「塩」のみ
Q.「ちくわぶ」とはどんな食べ物ですか。
関口さん「ちくわぶは小麦粉をこねて、ゆでた食品です。小麦タンパクの『グルテン』で作られる麩(ふ)とは原料も食感も違いますが、麩の一種として扱われることもあるようです。漢字では『竹輪麩』と書きますが見た目はその名の通り、ちくわのように穴が開いた筒状の塊で、外側が歯車のようなギザギザ状になっているのが特徴です。
原料は小麦粉の中で最もタンパク質が多く含まれる強力粉と塩のみです。強力粉に水と塩を加えてこね、コシを出すために何度も練ってはのばすことで、弾力が生まれます。生地を『羅宇(らう)』と呼ばれる棒にのばしながら巻き付ける特有の成形により、断面がバウムクーヘンのようないくつもの層になるのも特徴の一つです。
その後、ちくわぶの形を作るギザギザの型に入れ、高温でゆで上げます。さらに、型から外したものを水に漬け、やわらかくする工程『のばし』を経て完成します。こうして作られるちくわぶは強い弾力に富み、煮崩れしにくく、もっちりとした食感になります」
Q.「ちくわぶ」と「ちくわ」はどう違うのですか。
関口さん「先述の通り、ちくわぶの原材料は小麦粉(強力粉)と塩です。一方、ちくわは魚のすり身と塩から作られます。もともと、ちくわに似せて作られたのがちくわぶなので、穴が開いた筒状の見た目こそ似ていますが、味も食感も材料も全く異なります」
Q.ちくわぶは主に関東地方を中心に「おでんの定番の具材」として認知されているようですが、なぜ、関東地方では定番で、それ以外の地域ではなじみが薄いのでしょうか。
関口さん「地域による認知度の違いは、ちくわぶの発祥に関係していると思われます。諸説あるようですが、一つは関東大震災のとき、被災地の炊き出しに関西から来た人がおでんを供した際、京都では欠かせない生麩の代用としたのが始まりで、京都の生麩『もみじ麩』の形を模して作られたのが原形になっているという説です。
また、江戸時代、関東では『みそ田楽』がおでんとして食べられており、こんにゃくや豆腐、小麦粉の練り物があり、これがちくわぶの起源だとも考えられているそうです。このとき、早く煮えるように穴を開け、味の染み込みをよくするためにギザギザの筋を入れたという説があります。
このように、ちくわぶという食べ物は関東のおでん種として発祥したものの、関西では生麩が定番であったために、ちくわぶを必要としなかったこと、また、ちくわぶは空気に触れると劣化が激しく、当時の流通では各地に広がりにくかったことから、地産地消の食材となったようです。さらに、地域ごとに独自の『粉もの文化』が根付いており、他の地域のものを受け入れる必要がなかったのではないかとも考えられています」
Q.ちくわぶがよく食べられている地域とそうでない地域が生まれたのは、どのような背景からだと考えられますか。
関口さん「おでんの味付けが関係しているようです。関西のおでんは昆布をベースとした、すっきりした煮汁で、おでん種自体にしっかり味が付いたものが多い一方、単体で味のないちくわぶは関東の、しょう油を使った味の強い煮汁によく合います。味付けの違いで食べられる地域に違いができたり、各家庭の味に合わせたりして使われ方に影響していると考えられます」
Q.ちくわぶになじみのある地域では、おでん以外の調理法でも食べることはあるのでしょうか。
関口さん「ちくわぶはおでん以外にも鍋の具材にしたり、餅の代わりに、ぜんざいに入れたりすることもあるようです。田楽みそを添えて『ちくわぶの田楽』にする他、煮物にも用いられています。独特のもっちりとした食感に加え、味のしっかりした煮汁を吸わせるとおいしい食材なので、おでん以外でも幅広く使われます」
Q.ちくわぶの他に、特徴的なおでんの具材が知られている地域を教えてください。
関口さん「おでんは地域に根付いたソウルフードとして愛されており、全国各地でスープも具材もさまざまです。だしは一般的に、東日本ではカツオと昆布、関西・北陸では昆布、中国・四国では煮干しや焼きアゴが用いられ、さらに、使うしょう油によって薄い色や濃い色に分かれていきます。
特徴的な各地のおでんにはまず、『静岡おでん』が挙げられます。牛すじや豚モツ、鶏ガラなどの肉系のだしに濃い口しょうゆを使い、スープをつぎ足していくため、真っ黒なスープになります。黒はんぺんは代表的な具材の一つです。長野県の一部地域では、甘辛いねぎだれを添えて食されますが、これは、そばがおでん種に使われていた頃の名残といわれています。
富山には、白とろろ昆布を乗せて食べる『富山おでん』があります。特産の白エビを使ったつみれも特徴的です。石川県の能登地方では『いしる』(魚醤)を使い、バイ貝や魚肉しんじょ、車麩といった独自のおでん種が多くあります。沖縄では『テビチ』(豚足)をメインに、地元の葉物野菜をスープにくぐらせて、マスタードを添えることもあります。
北海道や青森県の津軽地方では、ネマガリダケ、つぶ貝、『大角天』(大きな四角いさつま揚げ)などの特産品がおでん種に使われます。また、近畿地方では『さえずり』『コロ』と呼ばれるクジラの舌や皮の加工品を使うこともあります。その他、地域の特産を使った練り物も数々存在します。おでんはその土地で進化をしながら、独自の味や具材が確立され、地産地消を進めてきたのだと考えられているのです」
(オトナンサー編集部)
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