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世論調査「賛成」上回る…18歳の事件で「実名報道」解禁へ 弁護士の見解は?

4月1日に改正少年法が施行され、事件を起こした18歳、19歳の少年について、「実名報道」が一部解禁されます。想定される影響を弁護士に聞きました。

実名報道一部解禁、影響は?
実名報道一部解禁、影響は?

 4月1日に改正少年法が施行され、事件を起こした18歳、19歳の少年について、従来の少年法で禁じられてきた「実名報道」が一部解禁されます。同じく4月1日に施行される改正民法で、成人となる年齢が「20歳」から「18歳」に引き下げられることに関連したものですが、実名報道解禁はどのような影響があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「更生」への影響懸念

Q.少年法改正の理由と、主な変更点を教えてください。

佐藤さん「今回の少年法改正は、民法の成年年齢引き下げに合わせてなされたものです。2022年4月1日以降、民法上の『成人』が18歳以上に引き下げられ、18歳、19歳の人は、社会の中で責任ある立場になります。そこで、少年法上も、18歳、19歳を『特定少年』として、成人に近い取り扱いが可能になる改正がなされました。

主な変更点は、まず、18歳、19歳について、(1)原則逆送対象事件が拡大することが挙げられます。従来、16歳以上の少年が『故意に被害者を死亡させた場合』、家庭裁判所は、原則、検察官に事件を送り返す(原則逆送)ことになっていましたが、改正によって、18歳、19歳の少年については、『法定刑の下限が1年以上の懲役・禁錮の事件』(強盗罪や強制性交等罪など)が追加されます。逆送されると、原則として、検察官により起訴され、刑事裁判を経て有罪とされれば、刑罰を科されることになります。

また、(2)逆送決定後は、20歳以上の者と原則同様に取り扱われることになります。例えば、17歳以下の少年の場合、有期懲役刑の期間の上限は15年ですが、18歳、19歳の場合、20歳以上の者と同様、30年になります。

その他、(3)18歳、19歳の時に犯した事件について起訴されると、実名報道が可能になることなどが挙げられます」

Q.実名報道の一部解禁について、詳しく教えてください。どのような影響がありそうでしょうか。

佐藤さん「実名報道の解禁は、18歳、19歳の時に犯した事件について、起訴された場合(非公開の書面審理で一定額以下の罰金や科料を科す『略式手続き』の場合は除く)、実名報道や顔写真の掲載など、その事件の当事者であることが分かるような報道が禁じられなくなることです。解禁されるのは『起訴された場合』なので、『逮捕された』段階での実名報道等は認められません。

一度、実名報道がなされてしまうと、ネット上では半永久に名前が残る可能性があり、特定少年の復学や就職などの妨げとなる恐れがあります。また、仮に、裁判で無罪が確定したようなケースでも、実名が残り続けることで悪影響が残る可能性もあります。実名報道により、若いうちに社会から孤立してしまうと、立ち直りが困難になり、再犯に及ぶ可能性も高まるでしょう。

そもそも、少年法が実名報道を禁じているのは、本人と分かるような報道がなされると、少年の更生や社会復帰を阻害する恐れが大きいからです。そこで、今回の少年法の改正に当たっても、国会の付帯決議において、『推知報道禁止の一部解除が、少年の健全育成および更生の妨げとならないよう、十分配慮されなければならない』とされています」

Q.実名報道一部解禁は、被害者感情への配慮などもあるのでしょうか。

佐藤さん「実名報道が一部解禁されるのは、18歳、19歳が民法上『成人』とされた以上、公開の裁判で刑事責任を追及される立場になった場合には、社会的な論評の対象になり得ると考えられたためです。そのことが、社会の正当な関心に応え、国民の『知る権利』に資するという面もあるでしょう。

一方、顔や名前を世間にさらすことにより、実名報道が、事実上、制裁のように機能することも否定できません。しかし、18歳、19歳についても少年法が適用され、少年法の目的が『少年の健全育成や更生』にある以上、制裁目的で解禁されたとは言えないでしょう。

また、被害者側の実名等は報道されるのに、少年の実名は報じられないとして、不公平を正す必要性が主張されることもあります。しかし、この点については、被害者側のプライバシー保護の在り方について別途議論すべきであり、被害者側とのバランスを保つために、少年側の実名報道が解禁されたとも言えません。

被害者感情といってもさまざまですが、実名報道の一部解禁によって、結果的に、一定の被害者感情に寄り添うことになる可能性はあるでしょう」

Q.実名報道が解禁されることについて、どのように捉えておられますか。

佐藤さん「18歳、19歳といっても、社会的に未熟な面があり、今まで適切な大人と関わってこなかったために、罪を犯してしまったケースも多いです。18歳、19歳の特定少年についても、17歳以下の少年と同様、更生する可能性は高く、社会復帰を促すことが、再犯を防ぐためにも非常に大切だと思います。

従って、先述した国会の付帯決議において指摘されているように、実名報道の一部解禁は、『少年の健全育成および更生の妨げとならないよう、十分配慮されなければならない』と思います。

実名を出さなくても、事件の内容や背景などを報じることにより、国民に事件を知らせることは可能です。実名報道は、一定の重大な事件で、社会で情報を共有する必要性が高い場合に限るなど、慎重に運用する必要があるように思います。

なお、最高検察庁は、裁判員裁判の対象事件など、『犯罪が重大で地域社会に与える影響も深刻な事案』を実名公表の検討対象にするという考え方を明らかにしています」

Q.世論調査などでは、実名報道解禁について、「賛成」が「反対」を上回っているようです。4月1日からは「大人としての権利」がさまざまな面で認められます。「権利」との関係を、どのように思われますか。

佐藤さん「『権利』を与える以上、社会的『責任』を課すことは、一般的には必要だと思います。ただし、18歳、19歳が罪を犯したときに、すべて『大人』と同じように扱うべきではないように思います。

最も大切なことは、罪を犯した18歳、19歳が、再び犯罪に手を染めないようにすること、再び被害者を出さないようにすることです。できる限り、実名報道がその妨げにならないようにしなくてはなりません。

今後、『特定少年の立ち直り』と『国民の知る権利』との間でバランスを取った報道が必要になるかと思います」

Q.改正少年法のもとで、少年犯罪を減らし、重大な犯罪をなくすためには、どのような法の運用、報道の姿勢が求められると思われますか。

佐藤さん「改正前の少年法のもと、少年犯罪、少年による凶悪犯罪ともに減少傾向にあります。また、18歳・19歳の少年が少年院を出て、2年以内に少年院や刑務所に再び入る率は、成人が刑務所を出所して再び入る率よりも、低くなっています。

改正後の少年法のもとでも、18歳、19歳について少年法が適用され、家庭裁判所が関与する仕組みは維持されます。その中で、少年法の精神を尊重し、ケースに応じて18歳、19歳の少年が更生できるような働き掛けがなされることが大切だと思います。

実名報道は一部解禁されますが、先述したように、18歳、19歳の立ち直りを考慮してもなお、社会で情報を共有すべき事案に限るなど、慎重な運用が求められるように思います」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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