オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

切り傷やすり傷の“痕”を残さず、きれいに治すためのポイント、皮膚科医が解説

擦り傷や切り傷ができると、治った後も傷痕が残らないか不安になるもの。きれいに治すための処置や、逆に傷痕が残りやすくなってしまうNG処置について、皮膚科医が解説します。

傷痕が残らないよう、きれいに治すには?
傷痕が残らないよう、きれいに治すには?

 日常生活のさまざまな場面で、体にできることのある切り傷や擦り傷。目立ちやすい部位にできてしまった傷は、治った後も傷痕が残らないようにしたいものですが、実際には「昔のけがの傷痕が消えないまま残っている」という人も多いようで、「どうして傷痕が残ってしまったんだろう」「もう消せない?」「きれいに治せる処置が知りたい」との声も聞かれます。

 傷痕を残さず、きれいに治癒させるにはどうすればよいのでしょうか。アヴェニュー表参道クリニックの佐藤卓士院長(皮膚科・形成外科)に聞きました。

傷を乾かして治すと、傷痕が目立ってしまうことも…

Q.そもそも、人間の体についた傷は、どのようなプロセスで修復されるのですか。

佐藤さん「皮膚に傷ができた際、出血している場合は、血液に含まれる血小板が傷口に集まり、血の塊を作って止めます。傷の中に細菌が入った場合は、血液中の白血球が攻撃して除菌し、『マクロファージ』という細胞が、傷ついて死んだ細胞や組織を除去します。傷の表面にできることもある『かさぶた』は、細菌が体内に入り込むのを防ぐ役割を果たします。

傷口の修復には、真皮(皮膚の深い層)にいる『線維芽細胞(せんいがさいぼう)』という細胞が活躍します。線維芽細胞は、コラーゲンを作り出して傷ついた部分を埋めます。次に、新しい表皮細胞が皮膚の表面を覆って傷が治るのです」

Q.痕が残る傷と、痕が残らない(ほぼ残らない)傷の違いは何でしょうか。

佐藤さん「さまざまな要因がありますが、主な違いは傷の深さです。皮膚は、表面から『表皮→真皮→皮下組織』の3層構造でできています。傷が表皮までの場合、傷痕はほぼなくなり、真皮の浅い層までなら、残っても目立たなくなります。それよりも深い層は、傷痕が多少なりとも残ることになります。

もちろん、元々の体質(肌質)にもよります。例えば、擦り傷ややけど、手術後など皮膚に傷ができると、最初は赤くても最終的には白い傷跡になりますが、しばらくたっても炎症が続き、いつまでも赤く盛り上がり、みみず腫れのようになったままのことがあります。この状態を『ケロイド』といい、傷がケロイド化しやすい体質を『ケロイド体質』といいます。この『ケロイド体質』の人の傷は目立ってしまうことが多いです。また、傷の不適切な処置で傷痕が目立ってしまうこともあります」

Q.傷痕を残さないために求められる適切な処置を教えてください。

佐藤さん「傷を負ったら、まず十分に洗浄し、泥や砂などの汚れや異物があれば可能な限り除去します。出血があるときは、圧迫して止血します。

以前であれば、傷は乾かして治すのが常識でした。傷をドライにするとかさぶたができて傷のふたになり、それが取れたら治癒するという流れだったのです。この場合、確かに傷は治るのですが、傷痕は目立ってしまいます。現在では『湿潤療法』といって、軟こうなどの外用薬を塗布し、傷の部分を覆う創傷被覆材で密閉して乾かさないようにすることが、目立った傷にしないための重要なポイントです。

『傷が化膿(かのう)していない』『止血されている』『浸出液が多くない状態』であれば、湿潤療法が行えるばんそうこうを使い、自宅で処置しても構いません。逆に、化膿するリスクが高く、出血していたり、浸出液が多かったりした場合は自己管理が難しいと思います。特に、化膿している傷には湿潤療法を行うべきではないので、湿潤療法の適応か否かの判断が難しい場合は、早めに専門医のいる病院にかかる方が安心だと思います」

Q.一方で、傷痕が残る可能性のあるNG処置とは。

佐藤さん「まず、傷を負った際に十分に洗浄せず、消毒薬を表面に塗布するだけの処置はNGです。洗浄が十分でないと、傷に入り込んだ細菌が増えて化膿してしまいます。また、消毒薬は正常な組織にもダメージを与えてしまい、治癒が遅れることもあるため、基本的には使用しない方がよいでしょう。

また、先述した通り、傷を乾かしてかさぶたを作ってしまう処置は、早く治る可能性がある一方で、傷痕が目立ってしまう場合があります。なお、傷が治った後、遮光せずに紫外線を浴び続けることも避けましょう。紫外線は色素沈着を濃くする作用があるため、傷が治った直後はしばらく遮光することが大事です」

Q.残ったまま時間がたった傷痕は、もう消えることはないのでしょうか。

佐藤さん「傷が治癒した後、皮膚はしばらくピンク色の赤みを帯びています。その後、赤みが引くにつれて薄茶色い色素沈着が出てきます。色素沈着は将来的には薄くなるのですが、数年かかることもあります。最終的に、傷痕は白い色(周囲の皮膚の色よりも若干薄い色)に落ち着きます。凸凹のある傷痕は少しずつなだらかにはなりますが、自然に消えることはありません」

Q.残ってしまった傷痕を消す方法はありますか。

佐藤さん「色素沈着に対しては、シミに用いる美白剤の外用治療やシミのレーザー治療を行います。凸凹に対する治療は難しいのですが、機器を用いて皮膚の表面に細かく傷をつけ、皮膚の再生を促すことで目立たなくする治療や、凸凹の段差を削ってなだらかにする治療などがあります」

Q.体に傷ができてしまった場合、日常生活で気をつけるべきことは。

佐藤さん「どのような傷でも、できるだけ早く専門医のいる病院にかかることをお勧めします。すぐに来院できない場合、まずは傷をしっかり洗浄して、汚れを取り除きます。洗浄の際は水道水で構いませんので、消毒薬を使用せず、可能なら傷の中をよく洗うようにしましょう。その後、圧迫して止血してください。

できるだけ乾かさないようにするためにも、軟こうなどを塗り、ばんそうこうで保護してください。湿潤環境を保つばんそうこうなども使用するとよいですが、傷を密閉することで化膿することがあるため、やはり傷をよく洗うことが重要です。傷が治った後は、保湿剤を塗ったり、色素沈着予防のために遮光したりして、乾燥しやすい傷痕を守るようにしましょう」

(オトナンサー編集部)

1 2

佐藤卓士(さとう・たかし)

医師(皮膚科・形成外科)・医学博士

アヴェニュー表参道クリニック院長。京都大学農学部卒業。九州大学医学部卒業。岡山大学医学部、杏林大学医学部、都立大塚病院形成外科にて研鑽(けんさん)を積み、現在に至る。日本形成外科学会認定専門医、日本レーザー医学会認定レーザー専門医。日本形成外科学会、日本皮膚科学会、日本美容外科学会、日本レーザー医学会、日本手外科学会、日本創傷外科学会所属。アヴェニュー表参道クリニック(https://www.a6-clinic.com)。

コメント