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子どもに好影響? 悪影響? 未成年のわが子に悩み相談する親の是非、専門家の見解

「わが子に仕事の愚痴や人間関係の悩みを相談している親」が話題に。親が子どもをカウンセラーのようにする行為の是非について、子育てアドバイザーに聞きました。

わが子に悩み相談する親?
わが子に悩み相談する親?

「未成年のわが子に悩み相談をする親」について先日、ネット上で話題になりました。親と子の関係性は家庭によってさまざまですが、未成年の子どもに仕事の愚痴や人間関係の悩みを聞いてもらったり、恋愛相談までしたりする親もいるようです。

 子どもに悩みを相談することで「スッキリした」「励ましてもらった」と感じる親もいるといい、ネット上ではこうした親子関係について、「幼い頃、母から祖母の悪口を聞かされていた」「親が子どもをカウンセラーみたいにしたらだめだと思う」「相談内容によっては問題ないのでは」「子どもへの影響が気になる」など、さまざまな声があるようです。

 親が子どもに悩みや愚痴を聞いてもらうことは、子どもにとってどのような影響が考えられるのでしょうか。子育てアドバイザーの佐藤めぐみさんに聞きました。

子どもの「負の感情」を引き起こす

Q.わが子に対して、親が悩み事(仕事、人間関係、恋愛)を相談したり、子どもも面識がある人に対する悪口を言ったりすることについて、どう思われますか。

佐藤さん「親が70代、子どもが40代のような場合、『老いては子に従え』といわれているように、心身ともに弱くなった親がわが子に助けてもらうのはあるべき姿です。しかし、未成年である子どもたちは親の深刻な悩みを受け取れるほど、精神的にタフではありません。ただ、親が子どもに意見を求めるのが全て望ましくないかというとそうではなく、相談内容によっては、その子の成長につながることもあります。

例えば、『来週の保護者会、何を着て行ったらいいかな?』といった、子どもが喜んでアドバイスをくれるような相談はどんどんしていっていいと思います。それにより、子ども自身が『ママ・パパの役に立てた!』と感じられれば、それはその子の自己肯定感、自己効力感を高めることにもつながっていきます。従って、親から子への相談はその内容次第で、よくも悪くもなり得るといえるでしょう。

一方で、悪口については、百害あって一利なしと私は考えています。聞いていい気分はしないですし、子どもにその癖が伝わりかねないからです」

Q.では、「親がわが子に悩み事を相談する・愚痴を聞いてもらう」ことは望ましくないのでしょうか。

佐藤さん「親がわが子に相談したり、愚痴を聞いてもらったりすることは、聞こえ方によっては『何でも話せる親子』のような印象を与えるかもしれませんが、子どもに与える精神的な負担を考えると、私は望ましくないと考えています。たとえ、親の方は『自分の悩みを聞いてくれるだけでうれしい。聞き流してくれてもいい』と思っているとしても、受ける側がそうでなければ、心に残ってしまうからです。

自分がもし、その相談をされたらどう思うかを想像し、心がモヤッとするのであれば、子どもにはなおさら難しいと感じられるはずです。ただ、親が悩んでいるのは紛れもない事実です。その出しどころが適切でないだけなので、誰かに相談すること自体はとても大事です」

Q.親から悩み事を相談されたり、親の愚痴を聞いたりすることが常態化している場合、子どもにとってどのような影響が考えられますか。

佐藤さん「もし、親からの深刻な相談が常態化しているのであれば、受け手である子どもの負担感が増し、精神的に不安定な状態になることが大いに考えられます。その内容が子どもにとって知りたくない内容であれば、なおさら、聞かされるたびに悲しみや動揺、不安といったさまざまな負の感情を引き起こすこともあるでしょう。

このようなつらい思いをしていても嫌と言えず、そのまま、のみ込んでいる子もたくさんいると考えられます。中には『自分がしっかりしないと』と大人の役割を担おうとする子もいるでしょう。愚痴に関しては、例えば、親が世間に対してネガティブな意見ばかりをぼやいたり、人の悪口を言ったりしている場合、子どもも愚痴が多くなるという現象はよく見られます。『こういうときはこう対処すればいいんだ』というメッセージを親が送っていることになるからです。

今回のケースに限ったことではありませんが、親が子どもに示す姿は同じようなことが起こったときに子どもが取る“お手本”になりがちです。よって、親が否定的なことを繰り返し言っている場合、子どもも学校への不満や友達の悪口を頻発するなど、否定的なものの見方が連鎖してしまうことはよく見られるのです」

Q.こうした親子の中には「友達同士のような親子関係」になっているケースもみられるようです。「友達同士のような親子関係」には、何らかのメリット/デメリットは考えられるのでしょうか。

佐藤さん「親子間が友達やきょうだいのような関係の場合、日頃から多くのコミュニケーションがなされていることが多いので、その点はよいことだと思います。ただ、親は子どもを導く存在ですから、やはり、同年代の友達やきょうだいとは違います。子どもに教えるべきことは教えていく責任がありますし、子どもにとって頼れる存在でいたいものです。

もちろん、『親が弱音を吐いてはいけない』とか、『常に自分を強く保たねばいけない』ということではありません。しかし、『わが家は何でも話せる友達のような親子関係だから、子どもに深刻なことでも相談しちゃう』というのは行き過ぎだと思います。遊ぶときは子ども目線でとことん遊び、生活全般では子どもを導けると、バランスのいい親子関係が築けるでしょう」

Q.こうした「子どもをカウンセラーのようにする」親側の行動について、「私のことかもしれない」と感じたり、「友人にこういう人がいる」と気付いたりするなど心当たりがある人もいるようです。

佐藤さん「子どもにとっては、自分の家庭が基準になることが多いものです。明らかに極端な育て方をされていても比較対象がないため、わが家を基準に捉えてしまうのです。例えば、『ヘリコプターペアレント』に代表される過管理、過干渉の子育てでいうと、もし、生まれたときからこの状態にさらされていれば、その子は『親が自分のことを管理・干渉することは当たり前』と捉え、“干渉する親”と“干渉される子ども”というデコボコのバランスのまま大きくなってしまうことがあります。

中には、自分が大人になって初めて、『うちの家庭は変わっていたのかも』と気付くケースもあります。子どもたちはまだまだ狭い世界で日々を過ごしていますから、置かれた状況を客観的に捉えたり、『これはおかしい』と訴えたりすることは難しいのです。

今回の事例も、親からの重い相談を『嫌だなあ』『気がめいるなあ』と思いつつも、それをのみ込んでしまっている子はいると思います。『子どもが嫌と言わないのだから、受け入れてくれているはず』と捉えてしまわず、親の方から気付いていくことが大切です。自分がしている相談が子どもを伸ばすのか、逆に負担になっているのかを見極めて行うことが大事といえるでしょう」

(オトナンサー編集部)

佐藤めぐみ(さとう・めぐみ)

公認心理師(児童心理専門)

ポジティブ育児研究所代表。育児相談室「ポジカフェ」主宰。英レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。現在は、ポジティブ育児研究所でのママ向けの心理学講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポートする活動をしている。著書に「子育て心理学のプロが教える 輝くママの習慣」(あさ出版)など。All About「子育て」ガイド(https://allabout.co.jp/gm/gp/1109/)を務めている。公式サイト(https://megumi-sato.com/)。

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