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承認欲求か謙遜か 「私はテキトーだから」と言う母親が認めるべき“本当の自分”

「私って適当だから」「私って大ざっぱだから」。そのように言う人に限って、実はそうでもないことがあります。なぜ、そんなふうに言うのでしょうか。

(C)あべゆみこ
(C)あべゆみこ

「私って適当だから」「私って大ざっぱだから」。そのように言う人に限って、実はそうでもないことがあります。

 私は子育て本の著者として、多くの本を出していますが、その中に「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」という本があります。長年、教育現場に携わってきた経験から、「完璧ではなく、いい意味で“テキトー”に育てること」が子どもの自己肯定感を育み、幸せな人生につながるという考え方を記したものです。

 このタイトルを見て、「私もテキトー母さんだから」と言う親にこれまでたくさん出会ってきました。謙遜しているのか、テキトー母さんへの憧れがあるのか、ともかくそう言うのです。しかし、そのような人に限ってキッチリ、カッキリしている「真面目で一生懸命な人」のように思います。

 なぜ、実際はそうでもないのに「自分はテキトーだから」と言ってしまうのか、考えてみました。

承認欲求の表れからか

 米国の心理学者アブラハム・マズローが人間の欲求を5階層で示しました。

(1)生理的欲求
(2)安全・安定の欲求
(3)所属と愛の欲求(社会的欲求)
(4)承認の欲求(尊厳欲求)
(5)自己実現の欲求

 人間には「周りから認めてもらいたい」「注目してもらいたい」という承認欲求があります。そのため、インスタグラムなどのSNSがよりどころになり、さらに「いいね」や「コメント」を異常に気にしてしまうのでしょう。また、SNSに上がる「この店に並んで食べました」「ディズニーランドに行きました」といった幸せ自慢や、逆に自分の失敗を載せる自虐ネタも、「こんな自分に注目してもらいたい」という心理の働きによるものではないでしょうか。

 同様に、他人から、「自分はこういうふうに見られたい」という承認欲求の表れが「私はテキトーだから」と言わせている気がします。「実は一生懸命に子育てをしているのだけど…でも、周りからは、もっと手抜きできる、大ざっぱな肝っ玉母さんやテキトー母さんとして見られたい」という憧れ、理想があるのではないでしょうか。

 私は「テキトー母さんのすすめ」というテーマの講演で、幼稚園や保育園に呼ばれることが多いのですが、参加者は「私の子育て、これでいいんだろうか」という不安を持っている人や心配性の人、そして、完璧主義の人です。つまり、ほぼ100パーセント、テキトー母さんではない人たちです。

 その証拠に、講演後、主催者の園長が異口同音に「教育の講演会をすると、いつも決まった、教育熱心な保護者ばかり参加する」と私に耳打ちするのです。参加者の皆さんもテキトー母さんに憧れているのかもしれません。

謙遜は美徳だけれど…

(C)あべゆみこ
(C)あべゆみこ

「自分はテキトーだから」と言う理由で、もう一つ考えられるのは「謙遜」です。「私の家、散らかっているので」と言う人の家に行くと、結構片付いているということはよくあります。

「肌がきれいですね」「きちんとしていらっしゃいますね」と褒められて、「そんなことないですよ」「いえいえ、テキトーなんです」と答える人もいるでしょう。家族旅行のお土産を近所に配る際、旅先で食べてとてもおいしかったから買ってきたのに「お口に合いますかどうか」と、つい言ってしまう人は多いと思います。

 謙遜は日本人の美徳のように思われていますが、褒められたら、それを素直に受け取ることも大切だと私は思うのです。特に普段から、大人同士(親同士)の世界で謙遜ばかりしていると、子育てにも悪影響が出てくる恐れがあります。わが子のことを他人から、「お子さん、よい子ですね、きちんとしていますね」と褒められたとき、「いえいえ、そんなことないです。家ではわがまま放題です、だらしがないです」と言わない方がよいのです。

 どうしてかというと、子どもには「謙遜の美徳の文化」が通じないからです。親の言葉をそのまま受け取り、さらに他人の前でけなされたと感じ、自己否定するようになってしまいます。わが子が褒められたときは「親ばかだ」と思われてもいいので、「ありがとうございます」と伝え、わが子が褒められた感謝と喜びを表現してほしいと思います。

「テキトーでない自分」認めて

(C)あべゆみこ
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 自分をテキトー母さんと言いたい人は謙遜しないで、「テキトーでない自分」を認めてあげましょう。そして、子どもに過度な期待をしていないか、理想を追い求め過ぎていないか、完璧ばかりを求めていないかを振り返り、程よいさじ加減ができる、本当のテキトー母さんになってほしいと思います。皆さんはどう思いますか。

(子育て本著者・講演家 立石美津子)

立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。自閉症スペクトラム支援士。著書は「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」(日本実業出版社)、「はずれ先生にあたったとき読む本」(青春出版社)、「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」(すばる舎)、「動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな」(小学館)など多数。日本医学ジャーナリスト協会賞(2019年度)で大賞を受賞したノンフィクション作品「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社、小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)。

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