車に触りたい 子どもの「好奇心」からくる行動は時に危険…親はどうすべき?
子どもの好奇心と無邪気な欲求に基づく行動は時に、子どもの身に危険を及ぼしかねないこともあります。親はどう対応すればよいのでしょうか。

「動いている車に触ってみたい」「虫を食べてみたい」「コンロの火を握ってみたい」。子どもの無邪気な好奇心は時に、大人の想像や常識を軽々と越えていきます。「わが子にはできるだけ、いろんなことを体験させてあげたい」「好奇心を満たしてあげたい」と思うのが親心ではありますが、一方で、子どもの好奇心に基づく欲求や行動が、子ども自身に重大な危険を及ぼしかねないことも多く、最近は「子ども用ハーネス(迷子ひも)」の是非も話題になることが増えました。
ネット上では「扇風機を不思議に思った息子が指を突っ込んだことがある」「『動いているタイヤに触りたい』と、走行中の車に向かって駆け出したときはゾッとした」などの驚かされた行動や、「子どもの好奇心を邪魔したくないけど、危険な目には絶対に遭わせたくない」「何がどうして危ないのかを教えるのは難しい」など、子どもの安全を守りながら、好奇心を育むバランスの難しさに頭を抱える親も少なくないようです。
子どもの好奇心と無邪気な欲求に、親はどう対応していけばよいのでしょうか。子育てアドバイザーの佐藤めぐみさんに聞きました。
「線引き」しっかりと
Q.子どもが「好奇心」を持つようになるのは、何歳くらいの頃でしょうか。
佐藤さん「発達心理学者のマイケル・ルイスは『人は生まれながらにして“苦痛”“満足”“興味”の3つの感情を持っている』としています。よって、好奇心のもととなる物事への興味は0歳の頃から備わっているといえます。しかし、親から見て、『この子は好奇心旺盛だわ』『何でも興味津々』のように感じるのは、もう少し後かもしれません。0歳前半はまだ、自ら移動することができない分、好奇心に基づいて、自発的に行動を起こすとまではいかないからです」
Q.子どもの好奇心が育っていく過程で、言動・行動にみられることの多い“変化”とは。
佐藤さん「親が、わが子の好奇心の芽生えを察知するきっかけとしては『最近、目が離せなくなってきたなあ』と感じることが挙げられるでしょう。自分で移動して、欲しい物に手を伸ばしたり、つかんだりするなどの行動が増えることで、親は好奇心の芽生えをより感じやすいと思います。
この時期の成長を見ると明らかですが、“ねんね”ばかりの赤ちゃん時代から、ハイハイをする、つかまって立つ、伝い歩きをする、自力で歩く、背伸びするといった目覚ましい成長をわずか1年少々で遂げる過程は『あれに近づきたい』『手を伸ばして触ってみたい』という好奇心が後押ししているのです。好奇心は成長を促す原動力ということですね」
Q.子どもが「○○してみたい」と思ったとき、それが大人から見れば危険なことであっても、臆せず(あるいは危険性に気付かずに)行動するケースが多いと思いますが、それはなぜだと思われますか。
佐藤さん「やはり、その危険を学習できていないこと、危険がまだ予測できないことが理由です。赤ちゃんはさまざまな試行錯誤を繰り返しながら、世の中のからくりの多くを学んでいきます。例えば、『コップを手から離したら、下に落っこちた』『ティッシュを1枚出したら、もう一枚さらに出てきた』などです。こうした事象から、『こうやったらこうなった』という事の顛末(てんまつ)まで経験できるので、その因果関係を学ぶことができます。
一方で、『動いている車に触ってみたい』『火を触ってみたい』『虫や泥を食べてみたい』といったことは危険が伴うので、当然、親が制止します。そして、言葉で『危ない』ということを教えることになります。つまり、先述の『こうやったらこうなった』という事の顛末まで経験できるタイプのものとは異なるわけです。
赤ちゃん時代は言葉で言われるよりも、実際に自分で経験したことの方が学びやすいのは明白ですが、だからといって、このような危険が伴う行為を経験で学ばせることは不可能です。言葉では伝わりにくい時期だけれども、経験で学ばせるわけにはいかないという点が、このような危険を教える難しさといえるでしょう」
Q.子どもの「○○してみたい」という欲求は時に、子ども自身に危険を及ぼしたり、重大な事故につながったりする可能性をはらんでいます。子どもの無邪気な行動に対し、親は子どもの身を守るために、どのように対応するのがよいのでしょうか。
佐藤さん「まず、家の中は外よりも問題になりそうなものを親が予測しやすいので、あらかじめ、『根回し』しておくことをおすすめします。例えば、どうしてもだめな物は退避させつつ、好奇心を満たせそうな“代わりの場所”をつくって消化させるなどの方法があります。
また、あえて、“禁断の場所”を解禁してしまうのもおすすめです。『カリギュラ効果』といって、人間は『だめ』と言われると余計に興味が湧いてしまうものです。子どもに『このキッチンの引き出しは触っちゃだめ』と言うと、余計に『何があるんだろう』と興味を引いてしまうので、わざと最初に見せてしまい、満足させてしまうというのも一つの手です。
一方、外出時は予測できない危険が多いので、『手をつなぐ』『抱っこひもを使う』『バギーに乗せる』などの方法で、とにかくしっかり、子どもたちを守っていく必要があります。SNSでも話題になったようですが、『子ども用ハーネス』もそのうちの一つとなるでしょう。先述したように、本当に危険なことは命を落としかねないものも含まれるので、経験で学ぶことができません。言葉での教えがまだまだ伝わりにくい時期だからこそ、何をもってしても『親とつながっている』ことが非常に大事だと思います」
Q.親の中には「子どもの好奇心を育んであげたい」親心と、「子どもの身の安全を守らないといけない」という使命感の間で、そのバランスに悩む人も少なくないようです。
佐藤さん「どこまでやらせてあげていいのか、どこからはだめなのか。このバランスに悩んでいる親はとても多いです。こういうとき、『本当に危険なこと』と『親の都合でやってほしくないこと』を区別して考えてみる視点が助けになることもあります。
例えば、外を歩いているときに、車の前に飛び出すのは本当に危険な『だめ』なので、その子の好奇心以上に最優先すべきは『安全』です。一方、水たまりに入って、ビチャビチャとやるのは、親としてはやってほしくない『だめ』で、洗濯が少し大変にはなりますが、子どもの好奇心は満たされます。実はこの、『親の都合でやってほしくないこと』は子どもの“わくわく”の対象であることが多いのです。
子どもたちの好奇心はいわば、理科の実験のようなものでもあるので、結末が経験できる実験にはできる範囲で付き合ってあげる。一方で、結末が体験不可能な、危険な実験はしっかり中止する。このように線引きができるとバランスが取りやすくなると思います」
(オトナンサー編集部)
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