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病気でない「加齢現象」は自宅で向き合う時代へ、危機をどう乗り越える?

「高齢になると体のあちこちに不調が生じ、病気がちになる」。そう思い込んでいる人も多いと思いますが、データによって、さまざまな見方ができることを解説します。

高齢者の「体の不調」、実際は?
高齢者の「体の不調」、実際は?

「高齢になると体のあちこちに不調が生じ、病気がちになる」。そう思い込んでいる人も多いと思いますが、実際はどうなのでしょうか。

 2017年の「高齢者の健康に関する調査」(厚生労働省)に「あなたの現在の健康状態」を聞く質問があります。これについて、65~69歳で「よくない」と回答した人(「あまりよくない」「よくない」の合計)は13.0%でした。年齢とともにその割合は多くなりますが、70~74歳で19.1%、75~79歳で26.2%、80歳以上で28.9%です。

 80歳以上でも「健康状態がよくない」と回答した人が3割に満たないのですから、高齢者の健康状態(自覚的健康)について、「こんなによいのか」と意外に感じられた人が多いでしょう。しかし、一方で、これとは様相が異なるデータがあります。

「病気」と「加齢現象」の違い

高齢者の健康状態の自覚と訴え、通院状況の比較
高齢者の健康状態の自覚と訴え、通院状況の比較

 2019年の「国民生活基礎調査」(厚生労働省)では、病気やけがなどの自覚症状がある人(有訴者率)は80歳以上で、人口1000人当たり511.0と半数を超えます。さらに、通院している人(通院者率)は同じく80歳以上で、人口1000人当たり730.3と7割超に上ります。

「あなたの現在の健康状態はいかがですか」と聞かれると「よくない」と回答する人は3割弱にとどまるのに、「有訴者」は半数、「通院者」が7割にもなるというのは、実に不思議なことです。調査した年や調査方法が違うとはいえ、それだけでは説明がつきません。

 なお、調査年、調査方法が違うので、あくまで参考程度ですが、年代別にまとめてみると表のようになります。

 高齢者では「自覚的健康状態がよくない人」よりも「有訴者(けがや病気の自覚がある人)」が2割以上多く、さらに「有訴者」を「通院者」が2割以上も上回っていることが分かります。なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

 まず、考えられるのが「自分では健康だと思っているが、病気と診断されたので病院に通わされている」ケースです。例えば、健康診断で「生活習慣病の疑いあり(高血圧、高血糖、脂質異常、不整脈など)」と診断され、「医者が言うなら病気なのだろう」と信じて通院し続けているような、ある意味で“つくられた病人”がかなりいるのではないかと想像します。

 また、健康という自覚はあるものの、「腰が痛い」「肩が凝る」といった理由で、はり・きゅうなどの施術を受けている人も多くいます。実際、有訴者が挙げた理由の上位5つに、男女とも「腰痛」「肩凝り」「関節痛」が入っています。問題は、果たしてこれらが「病気」なのかということ。つまり、医療の対象とし、健康保険を適用して治療行為を施すのが適切なのかどうかです。

 年を取れば、ほとんどの人に高血圧や高血糖の傾向は出ますし、腰痛や関節痛にもなります。そして、これらは完治するものではなく、ゆっくりと進んでいきます。それであれば、「病気」ではなく、単なる「加齢現象」(生理的老化)ではないかと考えられます。

 というのは、加齢現象には「内在性(遺伝的にプログラムされている)」「普遍性(誰にでも起こる)」「進行性(元には戻らない)」「有害性(生命維持にとってはよくない)」という4つの特徴がある(ストレイラーの4原則)とされているからです。

 最初の3つにのっとれば、先述の症状は加齢現象であって、病気ではないことは明らかでしょう。「自覚的不健康者+2割」の有訴者、「有訴者+2割」の通院者という数字は加齢現象を病気と認定して、過剰医療を施している可能性を端的に示しているように思います。

 こういう状態がいつまでも続くとは思えません。財政的な限界があるからです。それは介護施設に入所者をどんどん受け入れ、過剰な介護が続けられると介護保険制度が持たないため、入所基準が上がっていく(と予想される)のと同じことです。

自宅で加齢現象に向き合う時代

 近い将来、高齢者が病院などに頼らず、自宅で加齢現象に向き合わなければならないときがやってくるでしょう。加齢現象の進行を病院に頼らずに、どれだけ遅らせることができるか、また、その期間をどれだけ長くできるか。これが今、高齢者が考えなければならない課題です。

 非常に単純化すれば、高齢期の体の不調には「健常な状態→加齢現象→病気(病的老化)」という過程があります。加齢現象による身体的な衰えや精神的危機は避けられませんが、これを放置・我慢すると病気(病的老化)になる時期が早まったり、不慮の事故が発生してしまったりします。

「高齢者の死亡率や要介護リスク」は日常的に人に囲まれて暮らせる環境に住んでいるかどうかで大きく変わることが、さまざまな研究によって明らかになっています。

 加齢現象の放置が招く危機を防ぐには、日常生活を送るためになすべきことが徐々に難しくなる状況を手助けしてくれる人がいる、支え合い、励まし合える仲間がいる、一緒に運動に取り組める機会がある、加齢現象のつらさを忘れられるような楽しみがある――そんな環境づくりが欠かせないと思います。

(NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕)

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループで人事部門を中心にキャリアを積む。退社後、2012年より高齢者・高齢社会に関する研究活動を開始。高齢社会に関する講演や執筆活動を行うほか、新聞・テレビなどのメディアにも多数取り上げられている。著書に「だから社員が育たない」(労働調査会)、「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)、「速習! 看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)など。老いの工学研究所(https://www.oikohken.or.jp/)。

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