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食事も着替えも遅い…マイペースな子に悩む親がすべきこと、すべきでないこと

4月に進学や進級を控えているにもかかわらず、子どもがマイペースに行動しているのを見ると、親は「学校でやっていけるのか」「先生に叱られないだろうか」と不安に感じることでしょう。そんなとき、どのような姿勢で子どもと接するべきなのでしょうか。

マイペースな子ども、どう対応する?
マイペースな子ども、どう対応する?

 マイペースな子どもに手こずっている親御さんは多いと思います。実際、「食べるのが遅い」「着替えが遅い」「歩くのが遅い」「片付けが遅い」「勉強への取り掛かりに時間が掛かる」など、何をやっても遅いという子はたくさんいます。親としては日々、手こずるだけでなく、心配にもなると思います。

無理に成長を促すと逆効果

 筆者が知っているある母親は、幼稚園年長のわが子が何をやっても遅くてマイペースなので心配していました。小学校の入学説明会で渡された書類に入学準備の項目があり、その中に「時間を意識して動けるように」という一文があったため、余計に気になるようになりました。「小学校でやっていけるのかしら?」「先生に叱られるのでは?」「みんなについていけないんじゃないだろうか?」「給食や体育のときに困るんじゃないだろうか?」といった不安が募ったのです。

 そこで、母親は入学前に子どものマイペースな行動を直そうと、「もっと早くしなきゃダメ!」「どんどんやりなさい。何やってるの?」「早く、早く」「遅い!」「急いで急いで」と言うようになりました。その後、子どもがどうなったかというと、結局、テキパキと行動できるようにはなりませんでした。その子は母親が見ている所では一応、急ぐ様子を見せるのですが、見ていない所では全く変わりませんでした。しかも、家でも幼稚園でも「おなかが痛い」と訴えるようになりました。

 幼稚園では、友達とのけんかも増えました。また、後で分かったのですが、家では親の見ていない所で妹やペットをたたいていじめていたのです。

 筆者は小学校の教師として、650人以上の子を担当してきましたが、その経験から言えることは「子どもの学年にかかわらず、実際には親御さんたちが心配するほど困ることは起きない」ということです。学校にいるときは家にいるときより緊張していますので、その子なりにちょっとは素早く動くようになります。それに加えて、マイペースな子は癒やし系でおっとりしている子が多く、友達にもよく好かれます。時間がかかるときは周りの子が喜んで手伝ってくれます。

 このような助け合いが子どもたちの間で自然に生まれてきます。筆者はそれでいいと思います。マイペースな子は普段から、周りに癒やしと安らぎを与えていますから持ちつ持たれつの関係なのです。「手伝ってもらっているといつまでも自立できない」などと固く考えて、目くじらを立てる必要はありません。時期が来れば、だんだんできるようになりますから大丈夫です(これについては後で詳しく解説します)。

 それに「自分のことは自分でやりなさい。人に手伝ってもらったり、助けてもらったりしてはいけません。甘えて頼ってはいけません。人に迷惑を掛けてはいけません」と言い過ぎるのも問題だと思います。なぜなら、長い人生を生きていく上で、「人に手伝ってもらう・助けてもらう・甘える・頼る・迷惑を掛ける」ことが必要なときはたくさんあるからです。

「自分のことは自分で」日本のしつけ

 日本ではこれまで、家庭におけるしつけの場面や幼稚園・保育園・学校における指導の場面で、親や教師が「自分のことは自分でやりなさい。手伝ってもらってはいけない」と言い過ぎてきました。その結果、大人になってからも「助けて」「手伝って」が言いにくくなり、1人で苦しみ続けている人がたくさんいます。

 日本で今問題になっている子育てや介護におけるワンオペの問題も、根底にはそのようなしつけや教育があるのです。そして、それは職場におけるワンオペ、ひいては過労死の原因にもなっているとも考えられます。そうならないためには、子どもの頃から、上手に手伝ってもらう能力を育てることも大切です。そうです、これも立派な能力なのです。

 もう一つ大きな問題は「自分でやらなきゃダメ。早くしなきゃダメでしょ」などと叱られてばかりいると、子どもが自己肯定感を持てなくなるということです。それによって、「自分はダメな子だ」と思い込むようになり、自己否定感にとらわれ、余計にできなくなってしまいます。人生は思い込みで決まるといっても過言ではありません。「自分はダメだ」と思っていると、だんだんそうなってしまうのです。

 また、子どものペースは生まれつきのものなので簡単に変えることはできません。テキパキ行動できる子も生まれつきですし、マイペースな子も生まれつきなのです。親のしつけが悪いからマイペースになるわけではありません。その証拠に、同じ親に育てられている兄弟姉妹でも全然ペースが違います。

 そして、再度言いますが、生まれつきのものは簡単には変えられません。そのような自己改造が可能になるのは、思春期以降や大人になって将来や人生について真剣に考え、夢や目標を持って頑張り始めたときです。夢の実現のために本人自身が自己改造の必要性を強く感じて、それで初めて、少しは変わることができるのです。子どものうちに、そういう内面的な必要性を強く感じることは極めてまれです。そのため、子どものうちに自分の生まれつきのものを直すのは難しいのです。

 子どものうちに叱りすぎて自己否定感を持たせてしまうと、思春期以降や大人になってからも、夢に向かって頑張る力が湧いてこなくなってしまいますので、親は気を付けてほしいと思います。親は子どもの短所(マイペースなど)にはしっかり目をつむり、その子の長所を積極的に見て、肯定的な言葉をたくさん掛けてあげてください。そうすることで、子どもは自己肯定感を持てるようになり、やがて、しかるべきときに自分でスイッチを入れて頑張り始めます。

 親にできること(否定的な言葉をやめて肯定的な言葉を掛ける)をしてあげつつ、そのときを待ちましょう。待てる親であってください。親の仕事は待つことです。

(教育評論家 親野智可等)

親野智可等(おやの・ちから)

教育評論家

長年の教師経験をもとにブログ「親力講座」、メールマガジン「親力で決まる子供の将来」、ツイッターなどで発信中。「『自分でグングン伸びる子』が育つ親の習慣」(PHP文庫)など、ベストセラー多数。全国各地の小・中・高校や幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会でも大人気。公式サイト「親力」で新書3冊分のコラムが閲覧可能。公式サイト「親力」(http://www.oyaryoku.jp/)、ツイッター(https://twitter.com/oyanochikara)、ブログ「親力講座」(http://oyaryoku.blog.jp/)。

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