昆虫、歴史、鉄道…子どもの「熱中体験」、生かすも殺すも親次第
子どもが好きなことに熱中することで、どのような効果があるのでしょうか。小学校の教員として、長年の勤務経験がある教育評論家が解説します。

親が子どもの能力を伸ばしたいと思うのであれば、子ども自身がやりたいことや好きなことを応援して、たっぷりやらせてあげることが大事です。筆者は長年、小学校の教壇に立ち続けてきましたが、そういう「熱中体験」によって、子どもがぐんぐん伸びる例をたくさん見てきました。
親の応援は不可欠
例えば、筆者が担任として指導した小学2年のある子は昆虫が大好きで、日頃から、いろいろな虫を自分で捕まえたり、飼ったりしていました。その子の親も昆虫に関する図鑑や絵本、学習漫画を買い与えたり、一緒に昆虫採集したり、飼育を手伝ったりして、その子を全力で応援しました。
ある日、生活科の授業でダンゴムシの採集をしたとき、その子は数え切れないほどのダンゴムシを捕り、みんなに分けてあげました。また、その子はダンゴムシの飼育方法にも詳しく、ダンゴムシが好む湿り気のある土、枯れ葉、腐葉土、朽ち木などを飼育箱に入れるとよいことをクラスの子どもたちに教えました。それがきっかけで、クラスで「ダンゴムシ博士」と呼ばれるようになったのです。
どちらかというと、その子はクラスで孤立しがちで、他の子とけんかすることも多く、係の仕事や掃除もサボりがちでした。ところが、「ダンゴムシ博士」と呼ばれるようになったことが大きな自信になったようで、それ以降はけんかをしなくなり、他の子と協力して、係の仕事や掃除ができるようになりました。みんなが自分を博士として認めてくれて、心を開くことができるようになったのが大きかったと思います。
また、筆者が受け持った小学6年のある子は“歴史博士”でした。その子は筆者の担任以前から、数多くの歴史漫画を読みまくっていて、歴史の知識は大人である筆者を上回っていました。また、親がその子を博物館や史跡によく連れて行き、発掘体験をすることもあったので、歴史的な遺物のレプリカをたくさん持っていて、自分で作るのも好きでした。
夏休みの自由研究では、石器、土器、埴輪(はにわ)、竪穴式住居のほか、「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」の金印などを紙粘土で作って、クラスの友達の中で大評判になりました。その子は当時、歴史以外の勉強はそれほどできませんでしたが、中学3年になってから、学力がぐんぐん伸びて、地域で一番の進学校に入りました。
鉄道アニメが好きで、鉄道玩具にはまった子もいました。それがきっかけで、その子は鉄道が大好きになり、また、親の応援のおかげもあって、日本中の鉄道路線や駅に詳しくなりました。やがて、その子は観光に興味を持ち、大学で観光学を学んだ後、旅行会社に就職して、観光ツアーの企画を立てる仕事に就きました。筆者はその子が大人になってから、再会したことがあるのですが、観光ツアーの企画を考える仕事が楽しくてたまらない様子でした。
ところで、現在、テレビ朝日系で放映中の「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」という番組にも、いろいろな分野で熱中している子どもたちがたくさん登場します。筆者はその番組で「野菜博士」として紹介された緒方湊(おがた・みなと)君という子を知りました。
番組によると、彼は小さい頃から、野菜や果物の収穫体験に参加し、6歳のときに近くの畑を借りて、自分で野菜作りを始めたそうです。その後、10 歳のときに「野菜ソムリエプロ」の試験に合格し、史上最年少でその資格を取得。現在は自宅にある庭の菜園で国内各地の伝統野菜を栽培しているほか、茨城県の「いばらき大使」などを務めており、国内で行われるイベントやセミナーの講師としても活躍しています。
番組では彼のほかにも、自分の好きな分野の知識が豊富な子どもたちが「○○博士」として紹介されており、中には既にプロレベルに達している子もいます。皆、生き生きしていて楽しそうで、自信にあふれており、また、言葉の表現がうまく、タレントとのコミュニケーションも臨機応変にできる子が多いです。
そして、番組で紹介される子どもたちに共通するのは、親が全面的に子どもをバックアップしていることです。これは筆者の経験でもいえることですが、子どもが好きなことに熱中して深めるためには、親の多大なる応援が不可欠です。
なぜなら、子どもだけの力では「必要な物が買えない」「情報が得られない」「移動できない」「体験ができない」「褒めてもらえない」「話を聞いてもらえない」などの理由で、せっかく熱中しても深めていくことができないことが多いからです。
そのため、親の応援がないと、せっかく好きなことがあっても「ちょっと好き」「ちょっと得意」というレベルで終わってしまいます。反対に親が全面的に応援すると「すごく好き」「誰よりも得意」というレベルになることができるのです。
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