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病院以外で「陣痛」「分娩」が始まったらどうする? 体験した医師が解説

妊娠すると「出産予定日」を告げられますが、予定よりもかなり早い時期の出産もあり得ます。病院以外の場所で陣痛が始まったり、分娩しそうになったりした場合、どうすればよいのでしょうか。

想定外の陣痛が起きたら?
想定外の陣痛が起きたら?

 妊娠中の女性や家族が赤ちゃんに会える楽しみと分娩(ぶんべん)の不安を抱いて待つ「出産予定日」ですが、予定日よりもかなり早い時期に陣痛が始まり、そのまま生まれるなど想定外の出産も起こり得ます。ネット上でも「自宅で破水したので救急車を呼んだけど、結果的に自宅で出産した」「病院に到着する直前、間に合わずに車の中で出産した」などさまざまな体験談があります。

 病院以外の場所にいるときに陣痛が始まったり、分娩しそうになったりした場合、どうすればよいのでしょうか。自身も想定外の場所とタイミングでの陣痛を経験した、産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

「予定日通り」は6%

Q.そもそも、「出産予定日」はどのように判断するのですか。

尾西さん「出産予定日は基本的に、最終月経開始日(最後に生理が来た日)から280日目とされます。ただし、これは月経周期が28日前後と整っている人で『最後の月経開始日から約2週間後に排卵して受精した』と仮定した計算なので、月経不順の人の場合は大きくずれる可能性があります。

妊娠8週から10週の赤ちゃんの大きさは個人差が少ないため、最終的には、この時期の『赤ちゃんの大きさ』で出産予定日を判断します。なお、不妊治療をした人の場合は、人工授精をした日や胚移植をした日で決まります」

Q.予定日当日に生まれるケースは多いのでしょうか。

尾西さん「出産予定日はあくまでも『予定日』です。その日に生まれる確率はさほど高くなく、例えば、湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)のデータによると6.3%に過ぎません。母子ともに最もリスクが低いとされる『正期産』は37週0日から41週6日までですが、その中でも、39週台と40週台に生まれる確率が30%ずつと高くなっています」

Q.出産予定日よりも大幅に早い時期に陣痛が始まり、そのまま出産に至るケースもあるのでしょうか。

尾西さん「あります。正期産の37週に入っていればさほど心配ないですが、それより前だと、赤ちゃんがまだ、自分でうまく呼吸できない可能性があり、注意が必要です。陣痛が早まる原因として多いのは、出産までカチッと閉じているはずの子宮の入り口が開いてきてしまう、早産の一歩手前の状態『切迫早産』です。

もともと、入り口が開きやすい『頸管(けいかん)無力症』の他にも、おなかが常に張っていたり、母体が胃腸炎やウイルス感染症などにかかったりした場合も、子宮の入り口がやわらかくなって、開いてしまう原因になります。また、多胎児の場合は早く生まれることが多いです。

ちなみに、私も2人目のときは予定日よりもだいぶ早く出産しました。29週時に切迫早産で入院し、退院後は注意して過ごしながらも徐々に子宮の入り口が短くなり、担当医と相談して、『37週になったらすぐに産む』計画を立てていました。しかし、36週に入ったその日、自宅にいるときに陣痛間隔がどんどん狭くなり、動けなくなりました。

分娩予定の病院は車で40分以上かかるため、急きょ、切迫早産時に入院していた近くの病院に連絡し、運よく受け入れていただけたので、タクシーに飛び乗って5分で到着し、そのまま分娩室に直行しました。無痛分娩の予定でしたが、そんな間もなく15分で生まれました」

病院に電話、タオルを大量に用意

Q.病院以外の場所で出産する場合、母体や胎児に何らかのリスクはあるのでしょうか。

尾西さん「病院以外での出産は母児ともに大きなリスクを抱えることになり、おすすめできません。出産は病院での分娩でさえ、何が起こるか分からないからです。母体側は大量出血や感染のリスクの他、脳出血や塞栓(そくせん)症などを起こす場合があり、救命措置が必要なこともあります。赤ちゃんは正期産でも呼吸がうまくできないことがあるほか、へその緒の処理が適切でないと感染や貧血を起こしてしまう可能性があります。

私自身も自宅で起きた急な陣痛に『間に合わないかも…』という思いが頭をよぎり、夫も産婦人科医なので自宅での出産も考えましたが、『万が一の際、自宅では酸素マスクも酸素チューブもないため、赤ちゃんを救えない』と思い、何が何でも病院までは持たせなければと必死で動きました」

Q.「陣痛が始まったのでタクシーで病院に向かっていたが、間に合わず車内で破水した」という人もいますが、陣痛開始から出産までの時間はどのくらいなのでしょうか。

尾西さん「陣痛が10分間隔になってから胎盤が出るまでの時間を『分娩時間』といい、陣痛が来てから子宮の入り口が全開するまでを『第1期』、全開してから赤ちゃんが出てくるまでを『第2期』といいます。

その平均時間は、第1期は初産婦が10~12時間、経産婦が4~6時間、第2期は初産婦が1~2時間、経産婦が30分~1時間とされています。これはあくまでも平均で、事前の予想は難しいですが、産道が一度開くと開きやすくなるため、お産の回数が増えるほど短くなります。また、切迫早産だった人や1人目のお産が早かった人は、次も早くなる可能性が高いので注意です。おしるし(血の混じった粘液状の分泌物)や陣痛が来たら、早めに分娩先に連絡しましょう」

Q.病院以外の場所にいるときに陣痛が始まった場合、どうすればよいですか。

尾西さん「陣痛が始まったら、すぐに出産予定の病院に電話をして、指示をもらってください。間に合いそうなのか否かでも対応が変わってきます。また、基本的には出産で救急車を呼ぶのはNGです。一刻を争う命の危険のある人が救急車に乗れない事態を避けるためです。病院へは自宅の車かタクシーで行きましょう。

間に合わないとなった場合は、タオルをたくさん用意してください。羊水や出血を吸い取ったり、赤ちゃんをくるんだりするのに必要です。もし分娩になってしまったら、『焦らず、落ち着いて』が一番大切です。特に、本人は陣痛と分娩の痛みで冷静ではいられないことがほとんどなので、周りの人が落ち着いて行動しましょう」

Q.病院以外の場所で出産した場合、その後どうなるのでしょうか。

尾西さん「まず大切なのは、出てきた赤ちゃんをきちんと受け止めること。そして、生まれた赤ちゃんがすぐに『オギャー』と泣いて呼吸することです。泣かない場合は、背中や足の裏をさするなど刺激して泣かせましょう。

その後、へその緒を2カ所縛り、その間を切りましょう。1カ所だと反対側から出血してしまいます。そして、すぐに羊水をタオルで拭き取ってくるみ、冷やさないようにしてください。また、赤ちゃんが出てきた後に胎盤が出てきます。かなり大きいレバーのような塊が出てくるので、驚かないようにしましょう」

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尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は高輪台レディースクリニック副医院長。「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性のすべての悩みに答えられるかかりつけ医を目指している。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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