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パワハラ苦にひきこもった30代長男、「家計簿」をつけることで見えた就労への希望

親亡き後の長男の収入/支出は?

 長男がこのまま働くことが難しいと仮定した場合、親亡き後の収支はどのようになるでしょうか。長男は会社員のとき、厚生年金保険に加入していました。退職後は国民年金と付加年金に加入しています。このまま、国民年金と付加年金に加入し続ける予定とのことなので、公的年金は月額約8万2000円になることが分かりました。

 次に支出です。筆者の今までの感覚から、基本生活費として月10万円、別途住居費がかかるものとして見積もりました。すると、長男が疑問を口にしました。

「ちょっと待ってください。生活費が月10万円くらいとありますが、本当にそうなるのでしょうか。実際のところ、どうなるのかは分かりませんよね」

「確かにそうですね。おっしゃる通りです。では、現在のご家族の家計支出を参考に試算してみましょうか。単純に3分の1にはなりませんが、それでもイメージはしやすくなるでしょう。現在は月にどのくらいの支出がありますか」

 そう聞いてみたところ、ご長男を含めご家族の誰もが困ったような顔をされました。家計を管理しているはずの母親が言いました。

「大まかには分かるのですが、具体的な金額までは把握しきれていません。すみません…」

「それならば、これを機会に家計簿をつけてみてはどうでしょう。せっかくなので、ご長男がご家族のサポートを受けながらつけてみてはいかがですか」

「そうですね。お金のことも知りたいので、ちょっとやってみたいと思います」

 長男は前向きにそう答えました。ご家族と話し合った結果、次のようなルールを決めました。

・費目は細かくせず、食費、水道光熱費、医療費、雑費などに大まかに分ける。
・記録はパソコンでつけていく。
・長男一人でやろうとせず、難しいところは母親の協力も得る。
・月に1回家族会議で共有する。

「家計簿は一度つけたら終わりではなく、続けることが大事です。続けることで、それぞれの費目の目安金額が把握できるようになります。また、節約できそうなところも見つかるようになります。節約することが身に付けば、将来の生活にも役立ちますよ」

「はい、分かりました。続けられるように頑張ります」

 長男はそう言いました。当面は家族の家計支出を把握するようにし、その後、将来の見通しを立ててみるということで初回の相談は終了しました。

長男の行動範囲が広がった

 相談を受けてから数カ月後、母親から1通のメールが届きました。そこには、長男のその後のことが書かれていました。長男は家族と一緒に家計簿をつけるようになってから、節約にも興味が湧いてきたようです。スーパーのチラシなどを見るようになり、お買い得商品や旬の食材を自分で買いに行くようになりました。

 最近では、自分で買ってきた食材でちょっとした料理を振る舞ってくれることもあるそうです。自分で決めたことをやり、家族から感謝されることで、以前に比べ長男の顔色や気持ちもだいぶ良くなったと母親は感じているそうです。

 メールからは、意欲や自信を少しずつ取り戻していく長男の姿が目に浮かんできました。「このまま、自分のできる範囲を広げていき、就労できるくらいにまで回復してくれれば」と切に願いました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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