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パワハラ苦にひきこもった30代長男、「家計簿」をつけることで見えた就労への希望

職場でのパワハラがきっかけで、ひきこもりに至るケースは珍しくありません。心身が疲弊し、就労が困難な中で、お金の不安にどう向き合えばいいのでしょうか。

家計簿がきっかけになることも…
家計簿がきっかけになることも…

 正社員として働いていた人が、職場でのパワハラがきっかけでひきこもるケースは珍しくありませんが、心身ともに疲弊しているため、社会復帰するのは容易ではありません。筆者は、パワハラが原因でひきこもった男性の相談に乗る機会がありました。男性はお金について不安を抱えていましたが、これまで行動は起こしていませんでした。ところが、話を進めていくうちに、男性の中で“変化”がありました。

就労を考えると体調が悪化

 ある日、ひきこもりの長男(33)を抱えるご家族から相談依頼がありました。長男の希望もあり、当日は本人を含めたご家族からお話を伺うことになりました。家族構成は次の通りです。

・父(60)  会社員
・母(57)  パート
・長男(33) 無職

 長男は大学を卒業後、就職し正社員として働いていました。仕事は忙しく、休みもあまり取れない職場だったそうです。

 30歳の頃、顧客から大きなクレームが出てしまったのをきっかけに、上司からパワハラを受けるようになりました。精神的苦痛で体調が優れない中、無理をして会社に通い続けた結果、とうとう仕事ができない状態にまで悪化してしまいました。そのため、会社と相談し休職。自宅で休養していましたが、職場に復帰することが難しかったため、やむなく退職を決意しました。現在は月1回の通院を続けているそうです。

 仕事や上司からのプレッシャーがなくなり、通院治療の効果もあって現在、症状は比較的軽いようです。そのため、障害年金をもらえるほどではないとのことでした。長男は不安を口にしました。

「傷病手当金の支給が終了したので、現在の収入は0円です。貯金は少ししかないので、将来のお金の心配が大きくのしかかっています」

 長男は30代とまだ若く、筆者とも特に問題なく会話ができていたので、1つ質問をしてみました。

「少しでも収入があれば、将来の見通しは大きく改善します。何も正社員にこだわる必要はありません。パートやアルバイト、障害者を対象にした就労でも構いません。その辺はどうお考えですか」

 すると、長男は視線を下に向けたまま力なく答えました。

「働くことを考えると不安が強くなり、めまいがしたり体に力が入らなくなったりすることがあります。また、仕事以外でも物事に対する意欲や自信がありません。今のような状態では、とても働くことは難しいと思います…」

 両親は心配そうに長男を見つめています。そこからは、働くことに関して無理をさせたくない、という思いが伝わってきました。

「なるほど。分かりました。では、働くことが難しいという前提で将来のお金の見通しを立ててみましょう」

 筆者はご家族に向かってそう提案しました。

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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