日本にも欲しい? 炎天下で仕事するともらえる中国の「高温手当」、どんな制度?
中国には、高温状態の屋内外で働く労働者に「高温手当」を支給する制度があります。どのような手当なのか、中国の社会情勢に詳しい専門家に聞きました。

日中の最高気温が35度前後にまで上昇する日が、珍しくなくなりました。日本では、こうした日に屋外で働く人はかなりきついと思われますが、基本的に屋内で働く人と給料に差が出るわけではありません。しかし、中国では、35度以上のときに屋外で働くなど一定の条件をクリアすると、「高温手当」というものが支給されるそうです。私たちには耳慣れない高温手当とはどのようなものでしょうか。
北京人民ラジオ・中国国際放送局などでキャスターを務め、中国の社会情勢に詳しいノンフィクション作家の青樹明子さんに聞きました。
2012年に「防暑降温措施管理法」制定
Q.中国で支給されている「高温手当」とは、どのようなものですか。
青樹さん「簡単に言うと、ある一定の高温状態で仕事をする場合に、労働者に支払われる手当のことです。2012年に中国政府が『防暑降温措施管理法』という法律を制定し、高温手当の支給が法律で決まりました。『最高気温が35度以上のときに屋外で労働する場合、また、屋内であっても33度以下にならない環境で労働する場合は、労働者に高温手当を支給しなければならない』という内容です」
Q.なぜ、中国政府は高温手当の支給を始めたのですか。
青樹さん「中国は現在も、実質経済成長率が6%以上を維持しており、経済発展の道を進んでいます。この経済発展のスピードを止めてはいけないときに、暑いからといって、企業の生産活動などが正常に行われないと経済発展に支障が出ます。また、労働者の健康管理や勤労意欲を低下させないなど、さまざまな条件を整えていく中で出てきた手当と言えます。もちろん、労働者を大切にするという社会主義の理念も根底にあります。
中国では、冷房があまり普及していなかった数十年前、気温が40度近くになると工場などの操業を停止しなければならないという決まりがあり、そのたびに経済活動に支障が出ていました」
Q.高温手当は、どのような職種の人に、どれくらい支給されているのですか。
青樹さん「屋外で働く労働者とは、主に建設現場で働いたり、道路工事をしたりする労働者が中心です。現在では宅配業者も含まれるかもしれませんね。支給される金額は、中国の行政区分である『省』『直轄市』ごとに異なります。例えば北京市では、屋外で働く場合は月180元(日本円で約2700円)、屋内で働く場合は120元(約1800円)です。
上海市では、屋外屋内の区別がなく月200元(約3000円)です。天津市では、1日32元(約480円)と決まっており、この金額が支払われると、月960元(約1万4500円)となります。北京や上海の約5倍になることから、かなり高額の手当が支払われています」
Q.高温手当が支給される期間はどれくらいですか。
青樹さん「これも行政区分ごとに異なります。なぜなら、中国は国土が広大で、北と南の地方で夏の時期が異なるからです。例えば、北京では6~8月、上海では6~9月です。さらに南の地方では、4月か5月から支給が始まるところもあります」
Q.日本ではほとんど普及していない高温手当が、中国では広く普及しているということを知りませんでした。
青樹さん「中国は社会主義国家なので、国が全てをコントロールできますが、日本は違います。ただ、私も『高温手当』という手当があることは聞いたことがあるのですが、実際に『いくらもらった』という話は聞いたことがありません。中国でも『聞いたことはあるけどもらったことはないよ』という声もあります」
Q.聞いたことがないというのは、どういうことですか。
青樹さん「今の中国では、憲法や法律は他の欧米諸国などと同じく、あらゆるものが完備されています。ただ、中国を考えるときに前提条件として頭に入れておかなければいけないのが、法律に制定された内容が実行されているのかどうかは、別問題だということです。
高温手当に関しても、どのような条件で、どの職種の労働者にどの期間、どれくらい支給するかは、しっかりと法律で決まっていますが、この条件に従って全ての対象となる労働者に支払われているかどうかは別問題です。
おそらく、高温手当が支払われている人でも、内税のようにあらかじめ給料に含まれているので分かりにくいのかもしれません。また、手当を支払うかどうかは、最終的には企業のモラルでもあるので、手当を受け取ることができていない人もいるかもしれません。日本の考え方の物差しで中国を見ると、通用しないこともあるのです」
(オトナンサー編集部)
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