元夫に養育費を止められた年収80万円パート女性、法改正で夜の世界を辞められるか
法改正で多くの人が救われる?
このように、元夫の職場を特定できないせいで養育費を断念したケースは、一定数存在します。今まで、元夫から会社名や所在地を聞き出せるかどうかで明暗が分かれていたのですが、今回の法改正で「元夫への聞き取り」は不要になりました。市町村は、住民税の源泉徴収の情報から住民の勤務先に関する情報を管理しています。裁判所が市町村の役所に勤務先の情報開示を求め、役所が応じれば、元夫を介さず会社名や所在地を知ることができます。そして、勤務先の情報をもとに元夫の給与を差し押さえれば、未払いの養育費を回収できるのです。
住民税の源泉徴収の情報にひも付けられているので、開示請求をする先は元夫の現住所の役所です。当初、美鈴さんは元夫の現住所を知らなかったのだから、苦労して手に入れた戸籍の附票は無駄だったわけではありません。美鈴さんの悲劇はちょうど1年前ですが、法改正の恩恵で養育費を回収することができれば、夜の仕事を辞められるでしょう。
なお、今回の法改正で開示請求の対象になったのは勤務先の情報だけではありません。金融資産の情報(新・民事執行法207条)や不動産の情報(同205条)も加わったのですが、参考までに少し紹介します。
まず、金融資産ですが、裁判所が金融機関に元夫の金融資産(預貯金や株式、国債など)の存在について開示請求できるようになりました。実際のところ、元妻は元夫がどこの金融機関にお金を預けているのかを把握していないことが多く、金融機関名や支店名、口座番号は尚更です。もちろん、金融資産が存在すれば、そこから養育費を取り立てることができるでしょう。しかし、養育費の滞納者はほとんどの場合、お金に余裕はなく、むしろ窮している状況なので、開示が成功したとしても、いわゆる隠し財産を本当に持っているのかは甚だ疑問です。
次に不動産ですが、金融資産と同様、実用的かどうかは疑問が残ります。具体的には、裁判所が登記所に対して、元夫が所有者の不動産が存在するかどうかの開示を請求します。もちろん、元夫が(住宅)ローンの残っていない不動産を有していればよいのですが、不動産から家賃収入を得ていたり、住居費なしの不動産に住んでいたりするほど金銭的に余裕があれば、養育費の支払いを止めたりしないでしょう。実際には、居住用の不動産に元夫が住んでおり、住宅ローンを返済している真っただ中なので不動産を原資に養育費を回収するのは難しいと予測されます。
一方、元夫も自分の生活があるので働かないわけにはいきません。会社員にせよ公務員にせよ、収入を得ていれば、そこから養育費を取り立てるのが常とう手段です。あるかないか分からない金融資産や不動産ではなく、無職の場合を除き、ほぼ確実にあるであろう給与を回収するために勤務先の情報を手に入れることができる今回の法改正は、土俵際で踏ん張っている多くの人を救うことでしょう。
(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)
コメント