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「必ず伸びます」は発達障害児の親を追い詰める言葉になる “何もしない”選択もアリ

「天才ピアニスト」を目指すも…

 そのピアノ教室では、絶対音感を獲得するために、14種類の和音を聞き分けるレッスンがありました。通常は少なくとも2年を要するものでしたが、息子は2カ月で全ての和音を当てるようになったのです。先生から「今まで指導したお子さんの中で、一番早くマスターしました」と言われ、有頂天になりました。

 しかし、その後、息子は練習をひどく嫌がり、教室を退会することに。聴覚過敏で、ピアノの音が嫌だったようです。

 あれから、およそ14年。息子の「耳がいい」という能力は今「トイレの流れる水の音を聞いて、便器の型番を当てられる」ことに生かされています。「利き酒」ならぬ「利きトイレ」です。

「スポーツ観戦が好きだけど、運動は嫌いな人」「食べ歩きが好きだけど、自分で料理を作るのは苦手な人」がいるように、「耳がよいけど、音楽を奏でるのは嫌いな人」もいます。つまり、本人が好きなことと持っている能力は全く別物であり、「好きなこと」と「能力」が掛け合わさることで「才能」になると思うのです。

 才能を仕事に直結させなくても、本人が楽しんでいればよい。そんな風に“ゆるく”考えた方が楽なのかもしれません。

「受け入れたくない自分」を受け入れる

 親の心の奥には「あなたが障害さえ克服してくれたら、ママは幸せになれるのに」という気持ちがあるのかもしれません。障害の受容とは「子どもの障害を受け入れる」というよりは、親が「“障害を受け入れたくない自分”を受け入れる」ことなのかもしれません。

 たとえ優れた才能を発揮しなくても、「どんなに小さなことでも『昨日よりもできたね』と喜んであげよう」「将来、社会の役に立つ何かを成し得なくても、そばにいてくれるだけで十分」「できないことがあっても、大事なわが家の宝物」。そう親が感じながら育てていくことで、子どもの心は安定し、伸びていくのだと思います。

「必ず伸びるから」「才能の芽があるはずだから」といった言葉をかけられ、自身を追い詰め過ぎないように。時には「何もしない選択」もありだと感じます。

 皆さんは、どう思いますか。

(子育て本著者・講演家 立石美津子)

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立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。自閉症スペクトラム支援士。著書は「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」(日本実業出版社)、「はずれ先生にあたったとき読む本」(青春出版社)、「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」(すばる舎)、「動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな」(小学館)など多数。日本医学ジャーナリスト協会賞(2019年度)で大賞を受賞したノンフィクション作品「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社、小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)、Voicy(https://voicy.jp/channel/4272)。

コメント

2件のコメント

  1. 私も、発達障害と軽度知的障害があります。特別な才能は、自分ではないと思います。趣味は、1人カラオケと、塗り絵と、陶芸などです。カラオケでは、普通で、96点、一番よい時で、一位で、100点がとれる事があります。塗り絵は、人様から、上手いし、世界観かあるとは、言われます。陶芸は、障害者枠の教室にて、習っていて、毎年、作品展に、作品を出し、作品を買っていただける事も、多いです。自分の好きな事を楽しんで、できたり、ライフワークにできると、いいのではないかと思います。また、資格としては、通信講座で取得した、メンタル心理カウンセラー資格と、上級心理カウンセラー資格があります。

  2. 子を持つ人にやってほしいこと…あらゆる分野の事柄を見聞きする、それで何に興味持つか?懸命になるか?好き嫌いは何?…あげればキリが無い。
    その子自身の生涯を親のエゴで絞らない、将来どうなるか?は「開けてビックリ玉手箱」の心持ちで…だいたい「○○やるなんて許さない!」とか言ってる親は大概…子の気持ちを無視して、親自身の世間体を気にしてそう言うんでしょう?法律に則ったきちんとした「何か」をやりたいと言うのを突っぱねるなど、見苦しい!いい加減…そんな親見たくないけど。