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実は日本以上に深刻 中国で「少子化」が著しく進むワケ 5年で700万人以上減

給料の3分の1が教育費に消える人も

 競争に勝ち、結婚や出産にたどり着いても、生まれた子は親と同様、恐ろしい競争社会に組み込まれることが予想されます。

 競争に勝つためには、まず教育が重要となります。都会であろうが地方であろうが、教育だけが人生を変える最強のカードでもあるからです。

 甘粛省蘭州市に在住する37歳の男性は、5歳の子どもに正規の授業のほかに囲碁やレゴ、水泳など、課外授業8クラスを申請していて、学費は年間で6万元(約126万円)ほどかかるといいます。

 また、西北部に住むある父親は子どもの教育に月1000元(約2万1000円)をかけていると言いますが、しかし、彼の月給は3000元(約6万3000円)ほど。このほか、湖南省の農村地区の小学校教師の女性は、3歳にもならない子どもに給料の3分の1を費やしているということです。家計への負担は大きく、「2人目なんて不可能だ」と考えるのも無理はありません。

 このような状況の中、中国の専門家たちは「(国が本気で)人口減少を防ごうとするなら、産児制限の廃止だけでなく、教育費と住居費問題の解決など、強力な出産奨励政策が急がれる」などと警鐘を鳴らし続けています。

 しかし、自分の運命を変えられる可能性があるものは、「いい大学に入ること」というのは変わりません。2024年は1351万人が大学受験の申請をしていますが、近年はこれまで一般的でなかった「浪人生」も増え続けており、2024年の申込者の30%がより高名な大学を目指して受験に再挑戦します。

 中国語で「死ぬほど勉強しても死ぬことはない。ならば勉強しろ」(只要学不死、就往死里学)という言葉がありますが、勉強量も半端ではありません。高校3年にもなると、毎日午前6時には学校に行き、授業が終わるのは午後10時というのも普通に聞きます。

 最近、過酷な受験戦争を回避するために、海外留学を選ぶケースも増えており、「潤学」と呼ばれています。しかし、卒業後、そのまま留学先で就職するケースは少なく、多くの学生が中国に帰国して仕事を探しますが、海外留学組に冷たいのが現状です。結局、国内の有名大学を出た方が有利です。

名門大学出身でも就職が保障されず

 苛酷な受験戦争を生き抜いた後に彼らを待つのは「就職戦争」です。

 中国国家統計局が2023年6月に発表した数字によると、16歳から24歳の若年層失業率は20.8%と、過去最高を記録しました。2023年の大学卒業者は1158万人ですが、若者たちを震撼(しんかん)させているのは、トップエリート集団と呼ばれる北京大学や清華大学を卒業しても、必ずしも就職できるとは限らないという現実です。「大学卒業=失業」という流行語は現実に近いといってよいでしょう。

「いい大学を出さえすればいい仕事に就ける」という希望があるからこそ、若者は受験勉強に耐えることができたのです。その指標が崩れると、アイデンティティーを失いかねません。巻き起こる社会不安を察知したためか、中国国家統計局は2023年8月から若者の失業率データの発表を停止することを明らかにしました。

 新型コロナウイルスの流行と、それに伴うゼロコロナ政策もあり、中国経済は減速状況にありますが、中でも学生に人気だった、旅行業や航空業、不動産業をはじめ、飲食業などの分野が軒並み悪化しています。

 しかし、学生たちは無理して大学に行かせてくれた親に、恩返しをしなくてはなりません。一定の収入を得られる職業に就かなければ「面子を失う」ことになるのです。これが、子どもが受験戦争を勝ち抜いた後に待つ、厳しい現実です。

寝そべり族の出現

 国ががく然となったのは、出産制限を撤廃したのに出生数は増えず、それどころか競争に疲れた若者たちの中で、結婚も就職も放棄して「寝そべる」生活を選択することが流行し始めたことです。こうした若者は「タンピン族」(タンの漢字は、身へんに尚。ピンの漢字は平)と呼ばれています。

 タンピンとは「横たわる」という意味で、競争社会から離脱し、お金もうけも放棄して、大志も抱かず、欲望もほどほどにして、静かに生きていくことです。このタンピン学こそ「現代の競争社会に対する最大の武器」なのだそうです。

 最近では「専業子供(全職児女)族」という言葉も登場しています。これは、主婦業に専念する専業主婦のように、子ども業に専念するという意味です。ニートと違うのは、両親の世話や家事などを仕事のようにこなし、両親から「給料」をもらうことです。

 結婚も出産も就職も放棄するタンピン族も専業子供族も、高学歴者が多いのが特徴です。政府が経済再建に必要としている人材が、社会から離脱しているのは、頭の痛い問題です。

 新型コロナウイルスの流行以降、中国の経済減速は世界に懸念を及ぼしています。人口減少により、経済の悪化が進むと、政権が掲げてきた「豊かな社会」という概念が崩れてしまいます。豊かさを与えるから、他のすべてを我慢しろといわんばかりの強権をふるってきた共産党政権も、建国以来の危機であると言っても過言ではありません。

(ノンフィクション作家、中国社会情勢専門家 青樹明子)

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青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」「中国人の『財布の中身』」など。近著に「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」(日経プレミアシリーズ)がある。

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