「きっと才能あるよ」と励まされても…障害児を育てる親が苦しむ「電車が好きでも運転手にはなれない」現実
耳が鋭敏な息子の将来は「ピアニスト」?

私の息子は知的障害を伴う自閉症で、現在22歳です。息子は幼い頃、カラスの鳴き声を聞いて、カラスの種類を言い当てていました。これは聴覚が一般の人よりも優れているということです。
ある日、私は、ノーベル文学賞を受賞した作家・大江健三郎さんの長男で、知的障害のある作曲家の大江光さんが「幼い頃に野鳥の鳴き声を聞いて、鳥の名前を言い当てた」という話を聞きました。「ハンディを持ちながらも、秀でた才能を見つけ、それを伸ばしていくこと、息子の将来の職業につなげることが私の役目。親の務めなんだ」と思い、私は療育や習い事の“鬼”と化しました。そして、当時3歳の息子をピアノ教室に通わせることにしたのです。
しかし1年後、ピアノ教室を退会することになりました。息子は、耳はよくても、ピアノを弾くことに興味を全く示さなかったからです。興味を示さないどころか、ピアノの音が嫌だったようで、練習をひどく嫌がり、続けられなくなりました。それ以上続けさせる気力も、私にはありませんでした。
息子は22歳になりましたが、その一件以来、音楽に関わることは一度もありません。電車の音を言い当てられても、野鳥の鳴き声を聞き分けられても、それが仕事につながるわけではないのです。
ただ、息子の聴覚は変わらず鋭いです。現在はトイレの水流の音を聞いて、便器の型番を当てられます。利き酒ならぬ「利きトイレ」です。その便器が、どの施設の何階にあるのかも記憶しています。
ヘルパーさんとの週末の外出先は、商業施設のトイレです。自宅では、自分で撮った動画やYouTubeに没頭しています。描く絵も便器ばかりです。ただ、だからといって、トイレのメーカーに就職できて、トイレの便器の設計に関われるわけではありません。知的障害があり、難しいからです。
障害児の子育てに苦しんでいるママ友に、励ますつもりで「きっと才能あるよ。それを伸ばして将来の職業につなげたら?」と言いたくなるかもしれませんが、現実はそうではありません。そして、「秘めた才能があるから」「伸びるから」という言葉の裏には、「今はそうでもないけれど」という意味もあり、中には「子どもの今を受け入れられない」と悩んでしまう親御さんもいます。
才能が見いだせなくても、それがたとえ職業につながらなくても、「電車が好きで、毎週末電車を見に行く」「電車の写真を撮りに出かける」、そうした日常を送ることが、本人にとって幸せなのではないでしょうか。
(子育て本著者・講演家 立石美津子)








コメント