「きっと才能あるよ」と励まされても…障害児を育てる親が苦しむ「電車が好きでも運転手にはなれない」現実
障害児を育てる親を励ますために、「この子にはきっと才能がある」と言葉をかける人がいます。その言葉に苦しむ親の“胸の内”を、筆者が自身の経験とともに語ります。
子育て本著者・講演家である筆者の息子は、特別支援学校高等部に通っていました。その頃に知り合った親子のお話です。
その子は知的障害児でした。電車を見るのが何よりも好きで、音を聞いて列車名を当てることができるほど。電車に乗るといつも最前列の小窓から運転手の席を見ていました。親御さんは、障害児の子育てに苦労する中で、子どもが幼い頃から周りに「そんな才能があるんだったら、将来は電車の運転手ね」と励まされていました。
やがて、子どもは18歳になりました。
親御さんは、特別支援学校卒業後の進路を決めるにあたって、自治体が主催する「就労支援セミナー」に参加していました。息子さんが好きな鉄道会社の「障害者雇用」に関する話があったからです。
説明の中で、障害がある人が働く場所は、駅員の制服の管理をする「クリーニング部門」であるという話がありました。知的障害のある人が、駅のホームで電車に合図を出したり、電車の運転手になったりするのは難しいことです。もし、注意欠陥多動性障害(ADHD)の人が運転手になったら、事故を起こしてしまうかもしれません。
その親御さんは、最後の質疑応答の時間で「クリーニング部門ではなくて、息子が電車に直接関われる仕事はないんですか? 家で待っている息子に“お土産”となるようないい話を持ち帰りたいんです」と担当者に聞きました。すると、担当者はこう返答したそうです。
「制服管理も間接的に“電車を動かす仕事”に関わっていることになりますよ。電車の整備の仕事や、運転の仕事はしていただいておりません」
定型発達の人も、幸運にも鉄道会社に就職できたとして、運転手の仕事は狭き門。駅構内などで数年働いたのち、運転手になる試験を受け、合格しなくてはなりません。障害のある子だったらなおさらで、電車が好きだからといって、整備や運転の仕事に関われるわけではありません。
いい話を持って帰れず、落胆した親御さんでした。
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