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実は“大人になってから”も役立つ? 「母子手帳」は子どもが何歳まで必要? 産婦人科医に聞いてみた

2023年度に内容がリニューアルされる「母子手帳」。子どもが何歳になるまで必要な物なのでしょうか。活用法も含め、産婦人科医に聞いてみました。

母子手帳、いつまで必要?
母子手帳、いつまで必要?

 2023年度に内容のリニューアルが予定されている「母子健康手帳(母子手帳)」。妊娠、出産に関する記録はもちろん、生まれた子どもの発育記録など、母子の健康と成長をサポートする役割をもつものです。未就学児の母親が携帯・活用するイメージですが、中には「小学校高学年の子どもの予防接種を受けに行ったら、『母子手帳が必要』と言われた」など、子どもが成長してからも母子手帳の提示が必要なケースがあるようで、「そうなの!?」「何歳まで使うもの?」「いつまで持ち歩くべきか迷う」といった声も聞かれます。

 実際のところ、母子手帳は子どもが何歳になるまで必要な物なのでしょうか。上手な活用法とともに、産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

大切な「保護者と子どもの成長記録」

Q.そもそも、「母子手帳」とはどのようなものですか。

尾西さん「母子手帳は、妊娠期から乳幼児期のママと赤ちゃんの健康に関する情報が1つの手帳で管理できる優れものです。妊婦健診や乳幼児健診、訪問指導、保健指導、予防接種などの記録の他、妊娠期から乳幼児期までに必要な知識が載っています。また、医療者だけでなく、ママやパパなどが妊娠中・育児中に記録する欄もあり、子育ての記録にもなりますし、子どもが成長して、大人になってからも役立つ場面があります。

もともとは1942年に交付が開始された、流早産および妊娠・分娩(ぶんべん)時の妊産婦死亡を防止するための『妊産婦手帳』というものから始まりました。終戦後、母体だけでなく、生まれた後の子どもの健康管理まで対象を広げて『母子手帳』となり、1965年制定の母子保健法に基づいて『母子健康手帳』が正式名称となりましたが、今も一般的には『母子手帳』と呼ばれることが多いです。

生活物資が不足した戦時中や終戦直後は配給の実施にも役立ったとされ、とても歴史のあるものです。社会情勢や保健医療福祉制度の変化、乳幼児身体発育曲線など世の中の変化に合わせて、少しずつ改訂されて今に至り、『日本の周産期死亡率が低いのは母子手帳のおかげ』と世界でも評価されています。

母子手帳は、住民票のある市区町村の役所へ妊娠届を出すと無料で交付されます。母子保健法で『妊娠した者は速やかに市町村長に妊娠の届け出をすること』と決められているので、妊娠10週くらいまでには届け出を行いましょう。母子手帳と一緒に、妊婦健診で使えるチケット(妊婦健診費用の補助が出る)も受け取れます」

Q.診察、健診、予防接種などで、子どもを病院に連れて行くとき、母子手帳の提示が必要なのはなぜですか。

尾西さん「母子手帳には妊娠中、分娩時、それ以降の子どもの医療情報が全て載っています。医療者はそれを見て、発育や発達、アレルギー、どの予防接種を何回受けているかなど、さまざまな情報を得ることができるからです。また、その日の診察情報を次回に残すためにも母子手帳を持参する必要があります」

Q.一般的に、母子手帳は子どもが小学校に入学するまでの間に多用されるイメージがありますが、小学校時代やその後も必要なのでしょうか。

尾西さん「確かに、子どもが小学校に入るまでの時期が特に予防接種の種類や回数が多いため、多用するイメージがあるかもしれませんが、小学校以降も予防接種や医療行為を受ける際に持参すると『健康記録』として残ります。

子どもは、自分がどのような予防接種や医療行為を受けたかなど覚えていません。風疹やヒトパピローマウイルスの予防接種、輸血や手術を受けていないかなど、大人になってから確認が必要になることがあるので、病院に行く際は健康保険証とセットで持っていきましょう。

また、母子手帳には年齢ごとの標準的な身長・体重をグラフで示した『成長曲線』も18歳まで載っており、そこに子どもの身長・体重も記録できるので、可能であれば、高校を卒業するくらいまでは医療機関を受診する際に持参しましょう。成長の記録としても残せます」

Q.子どもが大きくなるにつれて、母子手帳を使用する機会が減ると、紛失・処分してしまうケースもあるようです。

尾西さん「母子手帳は紛失・処分してしまうと、それまでの記録がなくなってしまい、何の予防接種を受けたかなどが分からなくなってしまいます。

受診した病院へ問い合わせる方法もありますが、カルテ、および予防接種台帳は5年間の保管義務があるものの、それを超えると残っていない可能性もあります。同様に輸血などの重要な医療情報についても残らないので、大人になってから確認できなくなってしまいます。紛失・処分には十分注意してください。なお、妊娠中に紛失した場合は再発行が可能なので、早めに再発行してもらいましょう」

Q.子どもの成長に合わせた母子手帳の活用法はありますか。

尾西さん「母子手帳は『妊娠中・乳幼児期だけのもの』と思う人もいるかもしれませんが、大切な『保護者と子どもの成長記録』です。先述のように、大人になってからも予防接種や、受けた医療行為の情報などを見直すために必要になることもあります。子どもが自分で手帳をきちんと管理できるくらいまでは、保護者が管理してあげるのがよいでしょう。成人のお祝いに、子どもに渡してあげるのもすてきですね」

(オトナンサー編集部)

尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(神谷町WGレディースクリニック院長)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性の全ての悩みに応えられるかかりつけ医として、都内の産婦人科クリニックに勤務。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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