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症状は似ているけど…「産後うつ」と「マタニティーブルー」はどう違う? 産婦人科医に聞いた

気分の落ち込みや不安感といった不調が出ることで知られる「産後うつ」と「マタニティーブルー」。症状が似ているようにも思われるこの両者は、どう違うのでしょうか。産婦人科医が解説します。

「産後うつ」と「マタニティーブルー」の違いとは?
「産後うつ」と「マタニティーブルー」の違いとは?

 出産後の女性を襲う「産後うつ」。出産後、気分の落ち込みや不安感などが続くことをいい、適切なケアや治療が必要とされます。一方で、産後に「訳もなく悲しくなる」「涙もろくなる」といった気分の不調が出る状態を「マタニティーブルー」と呼ぶこともありますが、この両者について「どう違うの?」「産後で気分が不安定な時期だけど、どっちなのか分からない」「周囲の人が判断する方法はある?」といった疑問を持つ人もいます。

「気分の不調」という点では共通しているようにも見える、「マタニティーブルー」と「産後うつ」。この両者はどう違うのでしょうか。産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

ポイントは「発症の時期」「症状の続く期間」

Q.「マタニティーブルー」「産後うつ」とは、それぞれどのようなものですか。

尾西さん「まず、マタニティーブルーは医学的には『マタニティーブルーズ』といわれ、出産直後から急に涙もろくなる、不安になるといった情緒不安定な症状が現れることを指します。出産による急激なホルモンの変化がもたらす一時的なもので、出産後数日から現れることが多いのですが、多くの場合は産後2週間以内に治ります。

一方、産後うつは急激なホルモンの変化に加え、慣れない育児や授乳による不眠などで心身に負担がかかって発症する『うつ病』、つまり、『産後うつ病』です。疲れやすい▽気力がない▽訳もなく不安になる▽眠れない▽子どもに愛情を感じない―などの症状がみられ、日によって症状が変化しやすいのが特徴です。産後2週間後から3カ月ごろに多くみられます。

妊娠中に引っ越しや転職、退職などの大きなライフイベントがあった人や、切迫早産、難産など妊娠経過が順調でなかった人、過去にうつ病になったことがある人などは特に発症しやすいので要注意です。また、もともと責任感が強く、完璧主義の人に多いともいわれています。

なお、妊娠中にも、急激なホルモンの変化で『急に涙もろくなる』『不安になる』といった症状が現れることがあり、一般的にはこちらもマタニティーブルーと呼ばれています」

Q.この両者の違いは何でしょうか。また、症状としてより深刻なのはどちらですか。

尾西さん「産後のマタニティーブルーは、出産女性の2人に1人にみられるとの報告もあるほどよく見られるもので、治療の必要はなく、数日程度、遅くとも産後2週間までに自然と治ります。一方の産後うつ病は、10人に1人程度にみられるもので、数日で治ることはなく、2週間以上続きます。

産後うつ病の場合、悪化すると『死にたい』とまで思うようになり、産後の死亡原因のトップである自死の原因となるため、より早急な治療が必要です」

Q.この両者は症状が似ているようですが、どちらを発症しているのかを見極めるポイントはありますか。

尾西さん「発症の時期と、症状の続く期間がポイントです。先述したように、マタニティーブルーはより早期に現れますが、2週間程度で治ります。一方、産後うつ病は2週間以上続きます。ただ、まれにマタニティーブルーから産後うつ病に移行することもあり、きちんと経過を見ていくことが大切です」

Q.「産後うつ病かも」「マタニティーブルーかも」と思ったとき、どんなケアが必要でしょうか。

尾西さん「産後うつ病やマタニティーブルーのママは、自分自身を認めてあげる力である『自己肯定感』が弱まっていたり、母親としての自信を持てなかったり、自分を責める傾向である『自責感』が強くなったりするので、『私のせいで……』などの発言が見られたら要注意です。本人の自覚がないことも多く、周囲がママのつらさに気付いてあげることも大切です。

特に、産後うつ病は早めに適切なケアをしないと、慢性化や重症化、子どもの虐待につながる可能性もあります。周囲は『ダメな母親』『怠けている』など、決してママを責めてはいけません。

なお、気分が沈む▽眠れない▽何もないのに急に涙ぐむ▽死にたいと思う―などの症状が2週間以上続く場合は、病院を受診しましょう。治療は心療内科や精神科で行いますが、どこへ行ってよいか分からない場合は、かかりつけの産婦人科で相談してみましょう。十分な休養や専門家によるカウンセリング、薬による治療などが必要な場合もあります」

Q.産後うつ病やマタニティーブルーの発症を防ぐために、本人または周囲にできることとは。

尾西さん「まず、産後の無理は禁物です。『何でも完璧に!』などとは思わないで、夫(パパ)や両親など、周囲の人に育児や家事を手伝ってもらいましょう。夜中のおむつ替えはパパに頼んだり、昼間、少し誰かに赤ちゃんを任せてお昼寝をしたりと、心身の疲れを少しでも取るようにしましょう。

とはいえ、ママが自分から言い出しにくいかもしれないので、パパや両親は『○○しようか?』と手伝えることを積極的に提案してみてください。産後1年以内の引っ越しや転職など、大きなライフイベントも極力控えましょう。

また、話を聞いてもらえる誰かに相談することも大切です。身近にいなければ、1カ月/3カ月/6カ月検診などのときに、助産師や医師に相談するのもよいと思います。自治体によっては、子育てに悩む親のために産後、家庭を訪問して相談に乗ってくれる『赤ちゃん訪問』というサービスを行っているところもあるので、相談してみてもいいですね」

Q.現在、産後うつ病やマタニティーブルーに悩む女性やその周囲の人々へ、アドバイスをお願いします。

尾西さん「“母親”としての責任や慣れない育児に、大変な毎日だと思います。産婦人科医の私も、1人目の産後は『こんなはずじゃなかった、こんなこと誰も教えてくれなかった……』ということが山ほどあり、責任が重過ぎて、子どものことを手放しでかわいいと思えないこともありました。

でも、ママだって人間です。全部をママが背負って、子どもにささげる必要はないのです。ママ自身の心や体、時間を大切にすることで、赤ちゃんへの愛情も深まります。そのため、積極的に周囲の人を頼ったり、相談したりしてみましょう。1人でダメなら、また別の誰かに頼ってください。きっと、あなたの気持ちを受け止めてくれる誰かが見つかります。

昨今は新型コロナウイルスの影響もあり、1人で家にこもってしまったり頑張り過ぎたりしがちですが、そうすると、さらに悪化してしまうので、ゆったりした気持ちで過ごすようにしましょう」

(オトナンサー編集部)

尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(神谷町WGレディースクリニック院長)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性の全ての悩みに応えられるかかりつけ医として、都内の産婦人科クリニックに勤務。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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