「10年以上痛みがある」女性も…帝王切開の傷痕がずっと痛んでいたら、もしかして「癒着」かも? 産婦人科医に聞いた
帝王切開で出産した女性の中には、「傷痕が何年たっても痛む」ケースがあるようです。なぜ、痛みが長期にわたって続くのでしょうか。産婦人科医に聞きました。
帝王切開で出産した女性の中では、「傷痕が何年たっても痛む」ケースが“あるある”として認識されているようです。経験者も多いようで、「10年以上たっても痛みがある」「たまに痛むけど、いつか治まると言われて放置してた」といった声や、「腸が癒着しているって聞いたことあるけど…」「どうやったら治るの? 手術?」「放置していたら危ないのかな」など、疑問の声もあります。
帝王切開のときの傷痕が、その後も長期にわたって痛む場合、どのようなことが考えられるのでしょうか。産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。
おなかの中が痛む場合は「癒着」の可能性も
Q.帝王切開での出産後、開腹時の傷痕がその後も痛むケースがあるのは事実でしょうか。
尾西さん「事実です。この『傷痕』の痛みには、(1)目に見える皮膚の傷痕が痛む場合(2)皮膚の傷自体は痛まないが、おなかの中が痛む場合―の2パターンがあります。
【(1)目に見える皮膚の傷痕が痛む場合】
手術時に縫った傷は、傷口自体がくっついた後も皮膚の下では炎症が続いています。体質や外的刺激(摩擦や、引っ張られる『伸展刺激』など)により、いわゆる“みみず腫れ”のような『肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)』になったり、さらに、周囲にも広がる『ケロイド』ができたりしてしまいます。ケロイドは、皮膚の下で傷を治すための炎症が過剰に生じ、血管ができて赤く腫れたように見え、かゆみや痛みが続くものです。
開腹時の傷痕が痛むケースは通常の腹部手術でも起こりますが、帝王切開は赤ちゃんを取り出すために傷となる開腹部分が大きいことや、妊娠・出産により女性ホルモンが大きく変動すること、また、術後に赤ちゃんの世話や授乳で腹部に力が加わることで特に起こりやすくなります。
【(2)皮膚の傷自体は痛まないが、おなかの中が痛む場合】
このケースは、術後の『癒着』が疑われます。癒着は、手術で切った傷を治すため、おなかの中でかさぶたができるイメージです。その際に、周囲にある臓器にペタペタとくっついて治ってしまうことをいいます。例えば、子宮と腸がくっついてしまうと、そこを便が通るときに引っ張られて痛みが出ることになります。
この術後癒着は、帝王切開の46〜65%、その他の婦人科手術の55〜100%、腹部切開手術の93%に起こると報告されています(科研製薬「セプラフィルム」HPより)。軽いものであれば軽度の痛みで済みますが、重度になると腸閉塞(へいそく)や不妊、骨盤内の痛みが続く『慢性骨盤痛』といった問題につながってしまいます。
Q.「痛みを感じることがあるけど、放置していた」という女性も少なくないようですが、放置しても問題ないのでしょうか。
尾西さん「放置した場合、軽いものであれば軽度の痛みで済みますが、重度になると先述のような不妊、慢性骨盤痛につながります。術後すぐは問題がなくても、癒着により狭くなった腸管に便秘が加わるなどして腸閉塞が起こるケースもある他、日常生活でも、排便痛や性交痛といった不快な痛みに悩まされることもあります。
術後癒着ができる時期は7日以内(セプラフィルムHP)とも、20日以内(日本臨床外科医学会雑誌第40回第1号 久留米大学第一外科 溝手博義氏)とも報告されていますが、どちらも比較的、術後早期に起こるものです。ただ、その後に腸閉塞が起こるのはさまざまな原因が加わることによるもので、10年以上たってから症状が現れる場合もあります(日本臨床外科学会雑誌第32回4号 日本医科大学 須賀稔氏)」
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