「座席周辺の汚れが目立つようになった」という声も…飲食店“省人化”で顧客満足度下がる?
飲食店が省人化を進めることで、顧客満足度が下がる恐れはないのでしょうか。専門家に聞きました。
大手飲食店チェーンを中心に、タッチパネルや配膳ロボットなど“省人化”のための設備を導入する店が増えています。こうした設備を整えることで、必要最低限の人員で店舗を円滑に運営する狙いがあるようです。ところが、省人化を進める飲食店について、ネット上では「以前に比べて、座席周辺や食器の汚れが目立つようになった」という意見もあります。飲食店が省人化を進めることで、顧客満足度が下がる恐れはないのでしょうか。飲食店が省人化を進めるメリット、デメリットについて、飲食店コンサルタントの小倉朋子さんに聞きました。
顧客ニーズを把握できなくなる可能性も
Q.飲食店の中には、注文用のタッチパネルや配膳ロボット、セルフレジなどを導入し、必要最低限の人員で店舗を運営するケースもあります。飲食店の省人化のメリット、デメリットについて教えてください。
小倉さん「店側のメリットとして、省人化に取り組むことで、人件費削減につながります。飲食店の人件費は、全経費の3分の1程度が目安とされてきました。もちろん、この数字は基本的な考えであって、実際の数字は店舗によって異なります。しかし、店を運営する上で、人件費が少額でないのは確かです。
また、昨今は業界全体が人材確保に苦労しているため、省人化により、スタッフが少ない状態でも営業できるようになれば、店の運営も安定します。
デメリットとしては、店内の衛生管理や清掃、サービス全体のクオリティー低下につながりやすい点が挙げられます。結果として、店舗によっては顧客満足度が下がる傾向にあります」
Q.確かに省人化を進める飲食店について、ネット上では「以前に比べて、座席周辺や食器の汚れが目立つようになった」という意見もあります。省人化が影響しているのでしょうか。
小倉さん「一概には言えませんが、可能性は十分あります。省人化に当たり、スタッフの仕事量が減るわけではありません。むしろ、スタッフ1人当たりの負担が増した店舗は少なくありません。そうなると、スタッフが業務をこなし切れないこともあります。
スタッフへの心理的影響もあります。全業務を人間の手で賄う場合は、『常に隅々に気を配る』というスタンスが重視されますが、タッチパネルや配膳ロボットなどによる“業務の分担制”が進めば、『自分の担当以外の仕事はしなくても良い』という感覚が芽生えやすくなるでしょう。
また、スタッフの人数を必要最低限にすれば、スタッフが互いに切磋琢磨(せっさたくま)する必要もなくなるため、『自分が担当しなくても良いだろう』という、受け身的な意識になってしまう可能性もあります。
このほか、タッチパネルの導入などにより、スタッフが客と接する機会が減った場合、顧客ニーズを把握する機会が減ることにもつながり、今まで気付けていたことが、段々気付けなくなるという傾向もあります」
Q.省人化を進めると、顧客ニーズを把握する機会が減少するとのことですが、飲食店はタッチパネルを導入してもよいのでしょうか。導入時の注意点も含めて教えてください。
小倉さん「業態や店舗の環境によって異なります。タッチパネルを導入する場合も、店側は、スタッフに対して、接客業におけるサービスの重要性を最初に伝える必要があります。また、タッチパネルに抵抗のない客と慣れない客が混在しているので、細かな気配りは必要です。
一方、手頃な価格で食べられることを優先し、多少サービスや清掃の質が下がっても気にしない客が増える可能性もあります。その場合、そうした“割り切り型”の客層に向けた店舗改革が求められます。良い悪いは別として、従来のサービスを保持した店と『割り切り型』の店に2分化される可能性も高いです」
Q.結局、飲食店の省人化は、顧客満足度向上につながるのでしょうか。それとも、やり方次第では顧客満足度を下げてしまう可能性があるのでしょうか。
小倉さん「店や外食産業に対して、顧客が何を求めるかによって、顧客満足度は変わります。省人化を一つのエンターテインメントとして捉え、多少のサービス低下よりも安価で食事をするのに“慣れる”のであれば、顧客満足度が下がるとは言えません。しかし、従来の対面コミュニケーションや人的サービスを重視する場合、当然ながら満足度は低くなるでしょう。
また、店舗の業態が飲食物の提供を主体にしている店なのか、『リラックスや楽しさ、コミュニケーション』などを提供するタイプの店なのかによっても、客層との関係性が異なるため、満足度は変わるでしょう」
Q.店舗の省人化を進めた飲食店が今後、取り組むべき課題について教えてください。
小倉さん「飲食店は飲食物を扱っているので、衛生管理は重視すべきであり、その点を含めたマニュアル作りや教育、オペレーション、経費の見直しなどが必要でしょう。例えば『水が欲しい』『冷房を弱めてほしい』といった臨機応変な対応が求められることは、よくあります。その際、『余分なこと』だと思わずに、自発的にプラスのサービスを提供しようとするスタッフを店が育てられるかが、省人化を成功させるポイントになるでしょう。
日本において、飲食店の省人化が急速に着目されるようになったのは、コロナ禍になってからです。そのため、現在は課題が浮き彫りになりつつある段階です。マニュアルについても、全面的に作り直す必要があるかもしれませんし、客の声が届く店にするための努力や仕組みづくりが求められています。
デジタル技術を活用して、店舗側と客がコミュニケーションを取る仕組みをつくることもお勧めします」
(オトナンサー編集部)
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