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ウクライナ避難民の愛犬持ち込みで特例、「狂犬病」は大丈夫? 獣医師に聞く

管理の徹底がポイント

Q.今回の特例によって、ウクライナから日本に狂犬病が流入する恐れはないのでしょうか。

増田さん「今回、農水省は、戦禍による人道的配慮を理由として特例を適用しました。これに対する農水省の見解は『今回の対応は、輸入検疫措置の緩和ではなく、犬等の輸出入検疫規則に基づき対応するものです。この対応によって国内での狂犬病発生のリスクが増すことはありません』というものになります。

また、避難された人たちの滞在先で、ワクチンの接種や抗体価測定といった、本来輸出(出国)時に行われるものと同等の内容の措置を追って実施した上で、検疫所から『持ち出し許可書』や『指示書』が発行され、滞在先では、他の犬との接触制限や定期的な健康状態の報告などを行うように指示がされます。

抗体価等、狂犬病に罹患(りかん)している条件を限りなく除外した上での措置ということになりますが、咬傷などによる感染リスクは懸念材料となりますので、この部分の徹底は、必要になると思われます」

Q.万が一、狂犬病が流入した場合、想定され得る事態を教えてください。

増田さん「日本国内の法律や検疫などによって、幸いにも、狂犬病は長らく国内での発生事例はありません。ただ、一度発生した場合、再度清浄化に至るまでには、相当の期間や犠牲が伴うのではないかと危惧されています。

先述したように、狂犬病を発症した場合は、確立された治療方法がありません。ヒトの場合は、発症前に『暴露後ワクチン接種』(犬にかまれた後に狂犬病ワクチンを接種すること)を行うことで発症を食い止めることが必要となります。

また、狂犬病予防法10条に『都道府県知事は、狂犬病が発生したと認めたときは、直ちに、その旨を公示し、区域および期間を定めて、その区域内のすべての犬に口輪をかけ、またはこれをけい留することを命じなければならない』とあるため、実際に狂犬病が発生した地域で生活する犬にも、影響が及ぶことが考えられます。

世界情勢が不安定で、かつ人と物の往来が多い世の中、どのようなタイミングで狂犬病をはじめ感染症が国内に入り、流行するのか、心配事も多くなっています。検疫による対策をはじめ、私たちが行える範囲での『防疫』は重要です。いざ流行すると、瞬く間に拡大するものもあります。正しい知識をもって対策に臨むことが重要です。

そして何より、争い事によって、生活や生命に悪影響が出ないことを願ってやみません」

(オトナンサー編集部)

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増田国充(ますだ・くにみつ)

獣医師

北里大学卒業。愛知、静岡県内で勤務後、2007年にますだ動物クリニックを開院。一般診療のほか、専門診療科として鍼灸や漢方をはじめとした東洋医療を行っている。国際中獣医学院日本校事務局長兼中国本校認定講師、中国伝統獣医学国際培訓研究センター客員研究員、日本ペット中医学研究会学術委員、AHIOアニマルハーブボール国際協会顧問、専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師。ますだ動物クリニック(http://www.masuda-ac.jp)。

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