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コロナ禍で景気先行き不透明なのに…転職希望者は増加、なぜ?

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

転職希望者が増えている?
転職希望者が増えている?

 コロナ禍の影響によって、サービス業や飲食業など業績の厳しい業界も多い状況です。このように景気の先行きが不透明な中、一方では転職希望者が増えているとの情報があります。素朴に考えると、不景気になると社会全体としては雇用不安が生じるため、どちらかと言えば、「取りあえずは、今の仕事や会社でしばらく頑張ってみよう」と多くの人が思うのではないかとも考えられますが、実態は「転職したい!」となっているようです。

 なぜ、この時期に転職を考える人が増えているのでしょうか。そもそも、今このような時期に転職しても大丈夫なのでしょうか。まずは実態を見てみましょう。

求人は急回復中

 経済面では、コロナ禍で全世界的に国内総生産(GDP)が大幅下落しています。総務省によれば、2020年の日米欧主要国の実質GDP成長率は、過去のオイルショック、リーマンショックより厳しい状況で、2度の世界大戦、世界恐慌時の影響に匹敵する低下とのことです。

 しかし、求人面では、リーマンショック時に有効求人倍率が約0.4倍まで下がったのに対し、コロナ禍下の現在は1倍を維持しており、そこまで影響は受けていません。また、民間の調査指標の一つ「doda転職求人倍率レポート」でも、コロナ以前は3倍近かった求人倍率がコロナ直後には1.7倍程度に下がったのですが、現在では再度上昇し2.5倍をうかがう勢いです。

 さらに、同調査で転職希望者数に絞っても、リーマンショック明けからずっと右肩上がりだった人数は、現在でも上昇基調を続けています。つまり、ほとんどコロナ禍の影響を受けていないようにみえます。特に、若年層での転職希望者が増えているようです。

 総務省の労働力調査によると、25~34歳の転職希望者は2021年7~9月で237万人、就業者全体に占める比率は21.5%と、他の年齢階層と比べて最も高く出ています。2013~2019年の転職希望者の比率は17~18%程度だったので、やはりコロナ禍後に増えています。このように、求人側も求職側も、コロナ禍があったにもかかわらず、動きが活発化しているのは事実です。

受け皿があるから転職に希望

 それではなぜ?ということですが、第一には「求人があるから」ということでしょう。いくら転職したいと思って求人サイトを開いたり、人材紹介会社の門をたたいたりしても、出てきた求人が少なかったり、自分の希望に沿うものでなかったりすれば、すぐ意気消沈して、「まあ、今のところで頑張ろう…」となるのは明白です。

 私は人事コンサルタントですので、いつもは人事担当者や経営者の側から、採用のお手伝いをしているのですが、彼らの人手不足感は大変なもので、先述の数字に表れている通り、採用意欲はとても旺盛です。市場に人が出て来れば大歓迎するわけですから、人々がその気になっていくのも分かります。

「成長感」がなくなっている?

 ただ、機会があるからといって、誰でも彼でも転職したいと思うわけではありません。そこには、きっかけとなるものがあるはずです。さまざまな社会調査を見ると、若い人ほどキャリア選択において重視するものは「成長」という結果が出ます。逆に言えば、「成長が阻害されている」と感じたときに、「職場や仕事を変えなくてはならない」という動機が生まれやすいということです。実際、転職サービス「JobQ」が社会人および学生を対象に2020年に行った調査では、34%の人が退職理由を「キャリアアップしたかった」(2位)、44%の人が転職先を選んだ理由を「自分が成長できる環境だと感じたから」(1位)と回答しています。

 これを踏まえ、成長について考えてみると、確かにコロナ禍によってテレワーク化が進んだり、上司や同僚との接点が少なくなったり、そもそも業績が低迷し成長機会となる仕事が減ったりして、人々の成長感あるいは実際の成長が、阻害されているのかもしれません。

 コルブの経験学習理論から考えると、人は単に仕事経験をするだけで学習ができるわけではなく、「経験」を積んだことを「内省」し、そこから「教訓」を引き出して、それを新しい状況で「実験」するというサイクルを回すことで、成長していくとされます。このサイクルの中で、コロナ禍で阻害されそうなものは、「内省」と「教訓」ではないでしょうか。

仕事経験の振り返り、サポート機会を

 と言うのも、ある仕事を経験した際、上司や同僚のサポートなしに一人で内省を行い、意味づけをし、何らかの学び(教訓)を得ていくことは難しいからです。人は自分がやっていることを客観視することはなかなか難しい。自分で自分を見ることは物理的にできないように、みんな自分が何をやっているのか正確には分かりません。そのため、第三者からのフィードバックが必要です。

 コロナ禍で人との接触が減った今、意識しなければフィードバック量は激減していることでしょう。そして成長感がなかったり、実際に成長していなかったりすることは、大いにあり得ます。大事な人材が「成長できないこと」を理由に、離職してしまわないよう、職場の仲間同士、あるいは上司部下間で、これまでよりも積極的にフィードバックし合ってみてはいかがでしょうか。

 それが、「コロナ禍だけど転職したい」として、人材が流出することを防ぐことにつながると筆者は考えます。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス」(共著、ソシム)など。

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