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不人気説は間違い? 「宮形霊きゅう車」を最近見かけなくなった理由とは

「文化」としての宮形霊きゅう車

 一度、近くでよく見てほしいと思うのですが、宮形霊きゅう車は立派な工芸品であり、さまざまに施された彫刻は見事なものです。人生の最後の旅立ちに、立派な乗り物で、神仏として送り出すことを示した車にふさわしい装飾といえます。

 一般的には「宮形」と表現しますが、実は、あのお宮の名称は「輿(こし)」といいます。身分の高い人を運ぶ乗り物であり、神輿(みこし)などにいわれるように、神様や仏様を運ぶ乗り物なのです。ちなみに、日本で使わなくなった宮形霊きゅう車はモンゴルで、「走るお寺」として大人気で、「仏教徒として最高の栄誉だ」と現地の人に喜ばれているそうです。

 宮形霊きゅう車は不景気によって、葬儀にお金をかけられなくなったこと、そして、行政の火葬場新設における“いけにえ”として差し出されてしまったことなどから、不遇の時代を迎えていました。しかし、それは、宮形霊きゅう車自体に魅力がなくなったわけではなく、さまざま、かつ、不当な“宮形差別”ともいえるものの結果、市中で見る機会が減ったといわざるを得ないのです。

 宮形霊きゅう車に乗せる意味や、人気がないわけではないことを正しく分かってもらえれば、「最期は宮形で」が復権するのではないかと筆者は考えています。実際の現場では、孫の世代から、「宮形がいいよ」と言われて、宮形霊きゅう車を採用するご遺族のケースも数多く見てきました。

 宮形霊きゅう車は日本的な美しさを持つ誇らしい文化です。「故人を大切に送り出すために、立派な乗り物にしよう」というのは非常に温かく、優しい心意気ではないかと思います。

(佐藤葬祭社長 佐藤信顕)

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佐藤信顕(さとう・のぶあき)

葬祭ディレクター1級・葬祭ディレクター試験官・佐藤葬祭代表取締役・日本一の葬祭系YouTuber

1976年、東京都世田谷区で70年余り続く葬儀店に生まれる。大学在学中、父親が腎不全で倒れ療養となり、家業を継ぐために中退。20歳で3代目となり、以後、葬儀現場で苦労をしながら仕事を教わり、現在、「天職に恵まれ、仕事も趣味も葬式」に至る。年間200~250件の葬儀を執り行い、テレビや週刊誌の取材多数。YouTubeチャンネル「葬儀葬式ch」(https://www.youtube.com/channel/UCuLJbkrnVw6_a35M0rk8Emw)。

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