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150万円→15万円? ネットで「葬儀社」を選ぶときにハマる落とし穴とは

誰もが、いつかは関わるものでありながら、詳しく知る機会が少ない「葬祭」について、専門家が解説します。

葬儀費用で後悔しないためには?
葬儀費用で後悔しないためには?

「葬儀費用の全国平均は約150万円。企業努力により、当社の葬儀プランは15万円から」

 葬儀に関するこのようなキャッチコピーをネット上ではよく見かけます。注意しないといけないのは「150万円」は一般的な葬儀の平均費用である一方、「15万円」はいわゆる火葬だけの葬儀の金額であり、比べる対象として妥当ではない点です。「宗教に基づいた儀式+披露宴」といったフルセットの結婚式と「写真だけ」の結婚式という比較が果たして妥当か、ということと同じです。

「エンディングノート」や「終活」が流行し、少しずつ定着してきましたが、人の命はいつ終わりを迎えるか分からないものです。突然、家族が亡くなった場合も葬儀社を選ばなくてはなりません。昔は、お寺や近所で人づてに聞いたり、病院で紹介された業者を使ったりしていたのが、今ではネットで検索し、安心できそうな金額の業者を自分で選ぶ人が増えてきました。ここに落とし穴があります。

「安い費用に見える」重視

 ネット検索でトップに表示されるのは、広告を出している葬儀紹介会社が多いです。このような会社は高いときでワンクリック800〜2000円程度の広告費を支払い、検索画面に「広告」として上位表示されるようにしています。もちろん、企業ですから、広告を出してマイナスになるようなことはできません。その高い広告費用を回収できる計算で経営をしている、というのは、検索する際の大切な視点でしょう。

 家族を亡くし、いち早く葬儀社を決めなければいけない人は「家族葬プラン30万円」「火葬式15万円」といった広告を見て、「実際にはこの金額ではないだろうが、ベースが安いなら、きっとそこまで高くはならないだろう」と考え、頼んでしまうことがあると思います。その判断が後悔する結果を生んでしまうことがあります。

 7月2日の報道によると、葬儀紹介会社の最大手が出した「葬儀費用に追加料金がかからないかのような広告」が景品表示法違反(有利誤認)に当たるとして、消費者庁がその会社に対し、課徴金1億180万円の納付を命じました。これは2016年から2017年にかけての表示についての措置ということですが、最大手1社だけでなく、他の葬儀紹介会社も過去に同様の指導を受けており、「安い費用に見えること」に対して、企業側が必死だということが分かります。

「課徴金1億円」は相当に大きな金額で、罰則として非常に厳しいと言わざるを得ないものです。実際に葬儀の現場で追加料金が発生したケースがどれほどあったのか、企業側が公表した方がいい事例だと思われます。

葬儀費用はどう決まる?

 葬儀費用を節約するには「葬儀費用は何によって決まるか」を考えなくてはいけません。まず、気にしなければいけないのは総支払額です。項目ごとの費用が安く見えても、その会社独自の費用があったり、安く見せるために、目立つ部分だけ安くしていたり、不明瞭な項目が有料になっていたりすることもあるからです。

 では、総支払額はどのように成り立っているのでしょうか。これは非常にシンプルで「総支払額=単価×数量を足したもの」で計算されます。つまり、単価をできるだけ低くして数量を減らせば、支払う葬儀費用は安くなるのです。

 ここで注意しなければいけない点があります。通常の葬儀で人数を減らすと「数量」が減るので、一見したときの支払金額は安くなります。ただし、参列者は香典を持参するので、見えさえ張らなければ、人数の多少の変化は実質の支払額にあまり影響がありません。香典の範囲内で飲食や返礼などを賄えば済むことだからです。

 一般的な葬儀の費用構成は「火葬関係費、遺体等処置費、車両関係費、式場費、飲食費、返礼品、葬儀費、宗教関係費、供物費、諸費」などです。火葬だけの葬儀になると、火葬関係費と遺体処置費、宗教関係費だけになるので費用は抑えられます。ただし、葬儀は費用の面だけではなく、故人との「お別れ」であり、安ければいいというものではありません。

「死」は生から独立した存在ではなく、「生きている」が「生きた」に変わるときのことです。生がない死などあり得ないわけですから、故人にふさわしい送り出し方をしてあげるのが大切だと思います。費用を抑えたいのであれば、先述のように「単価」を下げれば安くなります。安い会社を探すよりも、自分が安心できる会社と話し、可能な限り希望を踏まえた上で、できるだけ予算に近づけてもらう方が、安心して旅立ちを見届けられるのではないでしょうか。

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佐藤信顕(さとう・のぶあき)

葬祭ディレクター1級・葬祭ディレクター試験官・佐藤葬祭代表取締役・日本一の葬祭系YouTuber

1976年、東京都世田谷区で70年余り続く葬儀店に生まれる。大学在学中、父親が腎不全で倒れ療養となり、家業を継ぐために中退。20歳で3代目となり、以後、葬儀現場で苦労をしながら仕事を教わり、現在、「天職に恵まれ、仕事も趣味も葬式」に至る。年間200~250件の葬儀を執り行い、テレビや週刊誌の取材多数。YouTubeチャンネル「葬儀葬式ch」(https://www.youtube.com/channel/UCuLJbkrnVw6_a35M0rk8Emw)。

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