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利用しづらい…? 女性の「生理休暇」は法的権利、取得時の注意点は? 専門家に聞く

「生理休暇」の取得は法律で認められていますが、「正直、利用しづらい」という声もあるようです。生理休暇について、社会保険労務士に聞きました。

生理休暇、認められても取得しづらい?
生理休暇、認められても取得しづらい?

 新型コロナウイルスの流行が沈静化し、在宅勤務が主流だった企業の中でも出社の割合を増やす動きが出ています。通勤時間の増加は多くの人にとってつらいものですが、働く女性、特に生理の症状が重い人にとっては、仕事に支障をきたしかねず、「出社するのもつらい」「生理痛がつらくて、仕事に集中できない」などと悩む声がネット上にあります。実は「生理休暇」の取得は法律で認められていますが「正直、利用しづらい」という声もあるようです。

 働く女性の強い味方となり得る生理休暇について、社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

労基法に明記、診断書なしでOK

Q.生理休暇が法律で認められているのは事実ですか。

木村さん「事実です。生理休暇とは、労働基準法68条で定められている休暇です。条文によると『生理日の就業が著しく困難な女性労働者が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない』とあります。法律で認められた休暇なので、会社の就業規則に生理休暇に関する記載がなくても請求は可能です」

Q.生理休暇は会社勤務の女性であれば、誰でも取得できるのでしょうか。

木村さん「女性労働者であれば、正規・非正規といった雇用形態や役職などを問わず、誰でも請求できます。年齢や勤続年数の制限もありません。取得限度日数に関しては、国の通達により、就業規則などで上限を決めることはできないとされています。生理期間中のつらさの程度や労働の困難さは人によってまちまちであるためです。また、必ず日単位で取得しなくてもよく、半日や時間単位での取得も可能です」

Q.生理休暇を取得する際、診断書などの証明は必要でしょうか。

木村さん「働くことができないほどつらい症状であるにもかかわらず、休暇を取得するのに医師の診断書などの提出を必要条件にすると、わざわざ、病院に行かなければならない上、発行には日数がかかるので、かえって、休暇が取りづらくなってしまいます。そのため、特別な証明をしなくても生理休暇を取得することができるようになっています。

また、会社側で証明を必要とする場合であっても、医師の診断書のような厳格な証明ではなく、例えば、同僚の証言程度の簡単な事実証明でよいとされています」

Q.生理休暇を取得した日は有給扱いになるのでしょうか。それとも、無給扱いでしょうか。

木村さん「生理休暇中の賃金について、『有給としなければならない』という労働基準法の規定はありません。従って、有給とするか無給とするかは会社で独自に決めることができます。その場合、就業規則などに定めた上で運用していくことになります」

Q.生理休暇の取得が有給休暇の付与・取得、社内評価に何らかの影響を与えることはありますか。

木村さん「有給休暇の付与と生理休暇取得の関係について、『生理休暇を請求して就業しなかった期間は、年次有給休暇の出勤日の算定に当たっては出勤したものとはみなされないが、労使間の合意によって出勤したものとみなすことも差し支えない』との通達があります。

労働者が有給休暇を付与されるには『労働日の8割を出勤していること』という基準をクリアする必要がありますが、就業規則などで『生理休暇日について出勤日とみなす』旨の定めがない場合、生理休暇は欠勤扱いで計算されるため、取得日数によっては基準のクリアができず、有給休暇を付与されない可能性があります。社内評価については、賞与・昇給などでマイナス評価をされるなどの不利益な取り扱いはできないことが最高裁で確定しています」

Q.その他、生理休暇を取得する際のポイントは。

木村さん「会社の給料で精勤・皆勤手当が支給される場合、就業規則などで『生理休暇の取得=欠勤扱い』の定めがあると、手当が減額、もしくは支給されない可能性があるので確認が必要です。また、生理中ではない場合や、生理中ではあっても就業が著しく困難でない場合に生理休暇を取得すると、そのことが会社に露見した場合、懲戒処分を受ける可能性があり、懲戒処分を妥当とした判例もあります。休暇の趣旨を理解して、適切な場面で利用することが大切です」

Q.働く女性の中には「生理休暇のことを知らなかった」という声があります。なぜ、周知されていないのでしょうか。

木村さん「主に次の2点が考えられます。まず、生理休暇は法律で定められているので就業規則などには明記されていますが、就業規則を読み込んだことがない人が多いので制度が周知されていないことと、過去の生理休暇の取得率が低いことが挙げられます。厚生労働省『2015年度雇用均等基本調査』によると、女性労働者がいる事業所のうち、2014年度に生理休暇の請求者がいた事業所の割合は2.2%で、女性労働者のうち生理休暇を請求した人の割合は0.9%です。

女性社員が入社しても、周りに生理休暇を取得する人がほとんどいないので、制度そのものを知らないままで過ごしてしまうのではないでしょうか」

Q.生理休暇の存在を知らない人はもちろん、「使っている人を見たことがない」「本当に休んでいいのか悩む」などの理由で、生理休暇の利用に消極的な人も少なくないようです。

木村さん「生理休暇は法律で認められた権利です。生理のつらい症状が原因で勤務が厳しい場合、我慢して仕事を続けるよりもしっかり休んで、体調を整えた方がパフォーマンス向上につながるでしょう。ただし、生理休暇時の賃金の扱いなど、制度の運用については会社ごとに違いがありますので、就業規則などを確認した上で活用してみてはいかがでしょうか」

(オトナンサー編集部)

木村政美(きむら・まさみ)

行政書士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

1963年生まれ。専門学校卒業後、旅行会社、セミナー運営会社、生命保険会社営業職などを経て、2004年に「きむらオフィス」開業。近年は特にコンサルティング、講師、執筆活動に力を入れており、講師実績は延べ700件以上(2019年現在)。演題は労務管理全般、「士業のための講師術」など。きむらオフィス(http://kimura-office.p-kit.com/)。

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