デザイン撤回、会場変更、担当者辞任…東京五輪は「危機管理」の上で何点だった?
危機管理は「0点」
Q.IOCや政府、組織委は「バブル方式で感染対策をする」と主張しましたが、入国後の隔離期間中でも、15分以内の単独外出が実質的に許可されるなど「穴」が次々に発覚しました。
山口さん「『15分以内の外出許可』は誰が考えても分かる、危険な抜け穴です。他にもバブル方式が機能していない事例は数えきれないほど報道されています。バブル方式が安心安全を担保できるかは、たくさんのルールの一つ一つが感染防止に十分か不十分かの評価だけでなく、ルールが守られているかどうかを誰がどう判断するのか、守られなかった場合の感染リスクはどの程度上がるかなどを総合的に判断しなければなりません。
五輪を契機とした感染拡大はまだ確認されていませんが、デルタ株が原因とされる感染が世界各国で急拡大している中での五輪開催が正しい判断だったか、問い続ける必要があります」
Q.ほかに問題点は。
山口さん「開幕直前まで続いた開会式を巡るトラブルの中で、演出統括責任者を巡る問題があります。もともと、開閉会式の演出は能楽師の野村萬斎氏が総合統括、電通出身のCMクリエーターの佐々木宏氏や振り付け演出家のMIKIKO氏ら7人の演出企画チームが担う予定でした。しかし、2020年12月にチームの解散が発表され、佐々木氏に権限が一本化されました。組織委はコロナ禍に伴う式典の簡素化を短期間で進めるためと説明しました。
当初、五輪開会式の執行責任者だったのはMIKIKO氏でした。彼女のチームの案はIOCにも絶賛され、総勢500人に及ぶスタッフやキャストらとも、本番に向けて契約を結んでいたと週刊文春は報じています。同紙の別の記事によれば、案では、漫画家・大友克洋氏が2020年東京五輪を『予言』した作品として話題となった『AKIRA』の主人公が乗る赤いバイクが会場を走り抜けるシーンで幕を開け、プロジェクションマッピングを駆使し、東京の街が次々と浮かび上がる内容。
『AKIRA』の大ファンである私はこのシーンを想像するだけで鳥肌が立ちました。しかし、この案は佐々木氏のもとで、言葉は悪いですが“ごみ箱行き”。莫大な資金と真摯(しんし)な努力は水泡に帰したのです。佐々木氏はその後、女性タレントの容姿を侮辱する企画を提案したことが発覚して辞任しました。先述の通り、演出メンバーの辞任や解任ラッシュは開幕直前まで続きました」
Q.東京五輪のここまでの危機管理を100点満点で評価すると、何点でしょうか。
山口さん「0点です。これまでに述べた問題のすべては危機管理の失敗が主な原因だと思うからです。そもそも、危機管理が必要だという発想が招致委や組織委にあったのか疑問に思います」
Q.五輪のような世界的スポーツイベントを開く際、危機管理の面で心得るべきことは。
山口さん「企画段階から、危機管理を『正しく』取り入れることが大切です。危機管理を『問題が発生した際の対応活動』と誤解している人が多いのですが、それは狭義の危機管理です。広義の危機管理はリスク管理、狭義の危機管理、危機管理広報の3本柱で構成されます。
リスク管理は発生するかもしれない危機、すなわち、潜在危機を洗い出し、発生しないようにする対策と発生した場合の対策を事前に講じる活動です。危機管理広報は潜在危機と、発生した危機の両方の現状や対応策を時と場合に応じて、しっかりと国民に説明し、理解と信頼を得る活動です。狭義の危機管理は危機が実際に発生した場合の対応活動です。この3本柱を実施しないと危機管理導入の意味がありません。
中でも、リスク管理は危機管理の重要な柱です。例えば、1人の人物に権限が集中したり、1つの企業に利権が集中したりした場合、深刻な危機をもたらす数々の事案が予想できます。これら予想できる事案が『リスク』です。危機管理のアドバイザーである私は、森前会長の問題発言や開会式の演出をめぐる混乱はリスクとして事前に洗い出し、対策を講ずることができたと考えています。
一つ一つのリスクへの対策をとっておけば、リスクが危機として顕在化する可能性は減少します。顕在化したとしても、よりよい危機管理対応をすばやく実施できます。『正しい』危機管理はスポーツイベントに限らず、政府・自治体も含めたあらゆる組織・団体・企業等の活動を有意義な方向に導く羅針盤だと私は考えます」
(オトナンサー編集部)








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