オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

東京五輪「開催反対」の声は重圧…選手はどんな心構えで臨むべきか

首都圏を中心に新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、東京五輪が7月23日に開幕します。開催反対の声が根強い中、選手たちはどのような気持ちで試合に臨むべきなのでしょうか。

東京五輪、選手はどう臨む?
東京五輪、選手はどう臨む?

 東京五輪が7月23日に開幕します。東京都を中心とした新型コロナウイルスの感染拡大を受け、一部地域で開催される競技を除き、異例の無観客開催となります。しかし、ネット上などでは「コロナ禍で開催して大丈夫なのか?」「飲食店で酒類の提供が制限されるなど、多くの国民が我慢を強いられる中で開催されるのはおかしい」「東京五輪を中止して、医療や生活困窮者に対して予算を使うべきだ」といった内容の意見も多く、開催に反対の声が根強いのが現状です。

 東京五輪に出場する選手たちは、こうした世間の重圧にさらされながら、結果を残していくことが求められます。選手たちはどのような心構えで競技に臨むべきなのでしょうか。一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

大きな責任とプレッシャー

Q.7月17日に行われた、サッカー男子のU-24スペイン代表との国際親善試合後のインタビューで、吉田麻也選手は「選手はファンの前でプレーしたい」「国民が見に行けないのならば、いったい誰のためのオリンピックなのか」などと発言し、ネット上では賛否両論の意見が出ました。競技の無観客開催は選手たちにどのような影響を与えるのでしょうか。

江頭さん「『応援の有無により、アスリートのパフォーマンスがどう変化するか』といったことについては、いくつかの研究論文が発表されており、『応援の効果がある』といった研究もあれば、『応援の効果はない』といった研究もあります。

ただ、『ゾーン』と呼ばれる、理想的な心理状態についての研究では、熟達したアスリートの中には、競技前の不安な気持ちがかえって、自身の想定をはるかに超えるパフォーマンスを引き出すことがあるといわれており、そのためには静かな環境が望ましく、観客の歓声はマイナスであるとされています(M.Jokela氏らの1999年発表の研究論文より)。

つまり、観客の大歓声は選手個人の性格や競技種目、環境によってプラスにもマイナスにも働くものの、無観客の静かな会場で競技が行われることは選手にとって、必ずしもマイナスばかりではないということです」

Q.開催反対が根強い中で行われるため、出場選手は結果にかかわらず、何かしらの批判を受けると思います。こうした中で、選手たちはどのような気持ちで競技に臨むべきなのでしょうか。

江頭さん「スポーツ選手が大きな大会に出場する際は結果が求められるだけでなく、世間の注目も集めるので、それだけ責任が大きくなり、プレッシャーもかかります。オリンピックの場合は特にその傾向が強いのかもしれません。しかし、『コロナ禍での開催』『選手村などで感染者が続出していること』『開催の影響で首都圏の道路が渋滞していること』『大会の収支が赤字になること』などについては、あくまで運営側の責任であり、選手の責任ではありません。

厳しい環境下で開催されるオリンピックだけに、世界のメディアも日本のメディアも感染対策などの不完全さを集中的に報道し、それに対してネットが反応し、SNS上では多くの意見が飛び交っています。この状況は選手に余計な不安を与えていると思いますし、この社会情勢はどの選手にとっても重圧だと思います。

また、結果が出なかったことを批判する人は何も分かっていない人でしょう。SNSに炎上コメントを書いたり、リツイートして関わったりしている人は1万2500人に1人とされます(Aiken氏らの論文『Flaming among first-time group support system users』などより)。つまり、SNS上で行き交っている批判的な『言葉』は国民の多くの意見とは『全く異なる』ということです。五輪選手はネット上の批判を無視すべきなのです。

なお、選手にとって問題となるのは、実はコーチや協会の重鎮の存在です。長野五輪の女子フィギュアスケート代表になった荒川静香さんに対し、彼女をサポートしようと、多くの先輩がそれぞれ異なったアドバイスをしました。その結果、荒川さんは混乱して本番直前に本来の滑りができなくなり、13位に終わりました。試合後のインタビューで『オリンピックなんて出なければよかった』と答えているほどです。五輪期間中は、身近な人のアドバイスを聞き過ぎないのもポイントになると思います」

Q.選手たちが多くのメダルを獲得したり、素晴らしいプレーを見せたりした場合、五輪反対でギスギスした世間の雰囲気が和らぐ可能性はあるのでしょうか。

江頭さん「『選手には最高のパフォーマンスを発揮してほしい』、それは東京五輪に反対する人であっても同じ気持ちだと思います。『緊急事態宣言下でのオリンピックだから、日本選手はみんな失敗すればいい』と考えている人は極めて少ないでしょう。つまり、今、日本国内にある反オリンピックの雰囲気を、日本選手団が活躍すれば吹き飛ばせるということです。

結果が出なかった場合、選手たちが『国民の皆さんに我慢を強いて開催したオリンピックが終わりました。ありがとうございました。これからはコロナと全力で戦いましょう』と声を上げて、ワクチン接種キャンペーンをしたり、医療従事者にエールを送ったり、飲食業に携わる人を励ましたりと『応援のお返し』をしていけばいいのです。

結果はどうであれ、ベストなコンディションで最高のパフォーマンスを見せてくれれば、雑音も静まっていくと思います。そして、これ以上、国民が我慢せず、学校の運動会や文化祭のほか、ロックフェス、飲み会などが自由にできる世の中に戻るために、政府には尽力してほしいです。『オリンピックは特別』という実態を解消するために、他のイベントも実施可能にした上で、全力でコロナと戦えばいいのです」

Q.先述のサッカーの吉田選手のように、五輪の出場選手は東京五輪に対する自分の考えを発信していくべきなのでしょうか。それとも、五輪が終了するまでは自身の競技に専念すべきなのでしょうか。

江頭さん「多くの日本代表選手は無観客の可能性も視野に入れて、調整を続けてきたと思います。今は国内が反オリンピックの雰囲気になっていますので、どのような発言をしても、先述のように、SNS上の批判をメディアが大々的に取り上げて、あたかも『世論』のように見せてしまいます。また、どんなに素晴らしい意見を発信しても必ず、批判する人がいるので、選手は嫌な気分になるでしょう。

無観客開催などについて、思うことはたくさんあるかもしれませんが、選手は発言を控えた方がよいかもしれません。勝っても負けても胸を張れるように、本番に向けてベストなパフォーマンスを発揮できるよう、まずは競技に集中することを期待します」

Q.開幕前から、選手や大会関係者の新型コロナウイルスの感染が相次ぐなど混乱した状況となっていますが、大会を少しでもよい方向に導くことは可能なのでしょうか。

江頭さん「緊急事態宣言下での開催は想定できませんでしたが、試行錯誤があり、ミスや間違いがあるのは仕方ありません。混乱の中で行われる東京五輪を少しでもよりよい大会にするには、私たち一人一人が覚悟を決めて、行動を変えて団結する必要があります。そのためには、コロナ禍で医療従事者に感謝したように、選手をはじめ、オリンピック関係者にエールを送りましょう。また、五輪期間中は外出を控え、自宅にこもって選手を応援しましょう。そうすれば、人流が減少し、新規感染者が減る可能性があります。

2020年4月の頃のように外出自粛をして、感染者を激減させることができれば、日本に来ている世界のメディアも『東京はさすがだった』と評価し、新型コロナウイルスの収束後に多くの外国人が観光に訪れるでしょう」

(オトナンサー編集部)

1 2

江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

コメント