有観客要請に広島訪問…IOC・バッハ会長の言動に批判、広報のプロが読み解く
IOCのバッハ会長が来日中ですが、その言動にSNS上などでたびたび、批判の声が上がります。なぜでしょうか。

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が来日中ですが、東京五輪開会式(7月23日)での約13分に及ぶあいさつを含め、その言動にSNS上などで批判の声が上がっています。入国した選手の新型コロナウイルス感染が確認されているのに「われわれが日本にコロナのリスクを持ち込むことは絶対にない」と言い切ったり、いったん、無観客と決まった会場について、感染状況によっては有観客を求めたり、入国間もない時期に広島市を訪問したりしているためです。
東京五輪主催者として、本来は五輪の意義や東京で大会を開く意味を、日本人をはじめ世界の人々に訴える役割があるはずなのに、発言のたびに逆効果となっている感じもします。バッハ会長の言葉はなぜ、多くの日本人の心に響かないのでしょうか。広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。
権力者の根拠のない発言
Q.バッハ会長が「リスクを持ち込まない」「大会の安全性に全幅の信頼を寄せていい」といった発言をしています。実情と懸け離れた発言のように思えますが、どう思われますか。
山口さん「結果的に実情と懸け離れた発言となりました。バッハ会長が菅義偉首相と会談したのは7月14日で、その際、『われわれがコロナのリスクを持ち込むことは絶対にない』と言って、胸を張ったと報道されています。
東京五輪・パラリンピック組織委員会(組織委)の発表によれば、その後、南アフリカのサッカー選手、テニス女子米国代表選手、米国女子体操選手団の補欠選手、自転車男子ロードレースのドイツ代表選手とチェコ代表選手、ゴルフ男子のスペインと米国選手など、次々と新型コロナウイルスの検査で陽性者が出ています。
オランダのボート競技の選手の場合は、選手村に滞在しており、競技出場後に感染が確認されたそうです。組織委の発表によれば、7月25日現在、選手10名を含む大会関係者などの陽性者は132人にのぼっています」
Q.バッハ会長はなぜ、根拠のない自信を見せる発言をするのでしょうか。実情がよく見えていないのでしょうか。それとも、虚勢を張ることで、日本人を安心させられると思っているのでしょうか。
山口さん「バッハ会長の根拠のない発言は『何があっても、最後まで、東京五輪を確実に遂行させなければいけない』という彼自身とIOCの最重要課題と焦りの反映だと思います。今年4月、IOC理事会後のオンライン会見でバッハ会長は『(緊急事態宣言は)ゴールデンウイークと関係しているもので、東京五輪とは関係ない』と発言しています。ジョン・コーツIOC副会長も5月、『緊急事態宣言下でも五輪は開ける』と発言しています。
実際にそうなってしまったわけですが、IOCにとっては東京五輪の実施が最重要課題であり、コロナ感染の拡大リスクは二の次なのです。だから、『自分たちの主張に資する発言なら、根拠など必要ない』と考えているのだと思います。危機管理広報のアドバイザーである私は、権力者の根拠のない発言はハッタリ、こけおどし、虚勢、脅し文句といった発言と同類だと思っています。
焦りという点について言えば、7月8日にIOC、組織委などの5者会談と、関係自治体を交えた協議会で、東京と埼玉、千葉、神奈川の1都3県で行われる五輪競技は無観客で開催すると決定しました。バッハ会長にとっては衝撃的な決定であり、このまま進んだら、中止もあり得るのではないかと焦ったと思います。
実際、『みんなが残念に思っている。観客もだが、五輪の雰囲気を楽しむことができない選手にとってはさらにだ』とバッハ会長はインタビューで語っています。この発言についても『みんな』という部分に根拠はないでしょう。根拠のない発言は本人の信用を落とすだけでなく、東京五輪のイメージを損なうと思います」
Q.菅義偉首相との面会で「感染状況が改善したら、途中からでも有観客を検討してほしい」と要望したとされます。この発言は東京五輪と日本政府に対して、どのような影響を与えたと思われますか。
山口さん「菅首相にとっては、原則無観客の決定に対する恨み節とも受け取れる発言ではなかったかと想像します。なにしろ、『第5波』となる急速な感染拡大が五輪開催中に起こるかもしれないという予測もある中での、バッハ会長のこの発言です。状況認識の甘さと空気の読めなさに、あきれたかもしれません。
あるいは『何があってもオリンピックは最後までやれ』とのIOCの最後通告と映ったかもしれません。あり得ない滑稽な発言のように思えても、IOCの最重要課題について、くぎを刺されたと首相も日本政府も感じたと思います」
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