KDDIの大規模通信障害 復旧作業中の社長会見は適切だった? 広報のプロに聞く
KDDIで7月2日、大規模な通信障害が発生しましたが、同社の高橋誠社長は翌3日午前、復旧作業が完了しない中で記者会見を開きました。会見のタイミングは適切だったのでしょうか。専門家に聞きました。

通信大手KDDIで7月2日未明、大規模な通信障害が発生した影響で、auや格安プランのUQモバイル、povo(ポヴォ)などがつながりにくくなったほか、KDDIの回線を使って金融や物流などのサービスを展開する企業の間でもシステムに不具合が生じ、業務に大きな支障が出ました。
この事態に際し、KDDIの高橋誠社長は、復旧作業の真っ最中だった3日午前に記者会見を開きました。専門的な知識を分かりやすく説明する姿勢に対し、ネット上などでは「会見の受け答えが素晴らしかった」などと高橋社長を称賛する声が多く寄せられましたが、通信障害の詳しい原因が判明していなかったため、「なぜ障害の詳細が分からない状態で会見をするのか」といった声もありました。結局、KDDIが「完全復旧」を宣言したのは5日夕方で、最大3915万回線に影響が出ました。
復旧作業中で、しかも通信障害の詳しい原因が判明しない中での高橋社長の会見は適切だったのでしょうか。広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。
相手が知りたい情報を早く、正確に提供
Q.復旧作業中で、通信障害の詳しい原因が判明しない中、KDDIの高橋誠社長は3日午前に記者会見を開きました。このタイミングでの社長による会見は適切だったのでしょうか。事故や不祥事があった際に、企業が記者会見で果たすべき役割も含めて教えてください。
山口さん「タイミングも内容も適切ではなかったと私は思います。高橋社長が2時間ほどかけて、通信障害の技術的な詳細をよどみなく話したことに対して、ネット上で称賛の声があふれたのは事実です。しかし、詳しい原因が分からない時点で、国民のうち、どの程度の人が、高橋社長の高度な『技術的レクチャー』を聞きたいと思うのかと私は疑問を抱きました。
KDDIの発表によると、通信障害が発生したのは、7月2日土曜日の午前1時35分。ネットでの最初の告知は同日午前3時ごろで、主な内容は『全国的にKDDIの通信サービスが利用しづらい状況が発生している』ということでした。その後、KDDIは、同日午前8時から、7月5日午後4時15分の『完全復旧』宣言まで、ほぼ1時間おきに情報を発表しています。
しかし、国民や利用者への周知は全く効果が上がらず、通信障害は大混乱を招き、KDDIへの多数の問い合わせ電話が、早期回復の足かせになった事実を多くのメディアが報道しています。なぜ、ネットでの告知とほぼ同時に、広報担当者などによる記者会見が行われなかったのでしょうか。いまやウェブ会議ツールのZoomなどを利用したリモート会見は日常茶飯事です。深夜であれ土曜日であれ、メディアは緊急事態にすぐに対応します。
記者会見のすべてが、企業や団体のトップがメインの登壇者を務めるものであるとの考えは正しくありません。事故などの発生当初の記者会見における正しい対応は、その時点で国民が知りたいことを、すなわち現状を早く、正確に、広く提供することです。そのため、発生当初の会見は社長である必要はなく、広報や危機管理担当の役員が登壇して、対応すべきです。今回、通信障害の発生当初に国民が入手したかった情報は、今、何が起きているのかという『現状説明』と『復旧の日時に関する予測』ではなかったでしょうか。予測については、『不明』であっても、条件次第でのいくつかの可能性を話すことが大切です。
こうしたことを踏まえると、国民がKDDIの責任者である高橋社長に最終的に聞きたかったことは、通信障害の真の原因と再発防止策、KDDIの責任と補償などを含めた今後の対応だったと思います。つまり、今回の場合、高橋社長が会見を実施するのに適切なタイミングは、7月5日午後4時ごろの『完全復旧』宣言直前だったと思います」
Q.企業が記者会見で果たすべき役割は、「国民が今知りたいと思っていることを早く、正確に、広く伝えること」ということですが、明らかに企業に責任がある場合、記者会見では事の経緯や原因などを伝えることよりも、まずは謝罪を優先すべきなのでしょうか。
山口さん「一般論で考えると、企業に責任があり、明らかに謝罪が必要だと考えられる場合は、まず『謝罪』をすべきです。死者が出た場合は、哀悼の意を表わし、けがをした人や家族には、早期回復の願いとともにできる限りの支援を表明するべきです。続いて『分かっている限りの原因の説明』『再発防止策』『補償を含めた今後の対応』、最後に『この件に関する企業の思い』などを話すのが一般的です。
火災や食中毒、バス・鉄道・航空機などの公共交通機関の事故の場合、『原因は捜査機関の発表に任せるべきだ』という考え方もあります。ただ、捜査に支障をきたさない程度の状況説明は必要でしょう。『事の経緯』については、ポイントを押さえて短時間で説明するべきです。これは。メディアとの間に理解の差異がないようにすることが目的です。しかし、大半を『経緯説明』に当てている記者会見が散見され、決まって紛糾します。なぜなら、必ずしも記者が優先的に聞きたい話ではないからです」
今回の会見の開催時期は総務省から急かされて仕方なく早くやらされたんでしょう?
なんでも批判すれば良いものじゃないよ