朝令暮改でも内閣支持率堅調…「聞く力」岸田首相の記者会見、広報のプロの見方は?
重要政策について「朝令暮改」といった批判を浴びつつも、岸田文雄内閣の支持率が、堅調に推移しています。岸田首相の記者会見の様子も、支持率に影響しているのでしょうか。
岸田内閣の支持率が、堅調に推移しています。新型コロナウイルスの水際対策や10万円給付を巡っては、方針変更が目立って「朝令暮改」「迷走」といった批判があり、オミクロン株の感染も広がってはいますが、今のところ、「妥当な対策をしている」とみられているようです。
岸田文雄首相は「聞く力」を掲げ、記者会見でも無難な受け答えをしているように見えますが、一方で、「個性がない」「カラーが見えない」との評価もあります。最近の首相経験者、安倍晋三氏や菅義偉氏は記者会見の在り方に批判もありましたが、岸田首相の会見を、広報のプロはどのように評価するのでしょうか。広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。
安倍氏を「反面教師」に?
Q.岸田文雄首相の記者会見をどう評価しますか。
山口さん「記者会見での記者の質問に対する答え方は、穏やかで、丁寧です。回答の内容は、納得できる点が多く、好感が持てます。一方で、会見のスピーチ原稿については、『分かりやすく伝える』という点で、改善の余地があると思います。
私は、記者会見のトレーニングを仕事の一部としています。記者会見を成功に導く要素の一つは『聞いてよく分かる』スピーチの原稿を準備することだと考えています。そのためには、スピーチの組み立てを、『結論→理由→詳細』の順番にし、カタカナ言葉、お役所言葉など、難しい言葉を避けることがポイントです。
岸田首相の記者会見スピーチは、ほとんどが、『起承転結』のスタイルで、『耳から』では理解が難しい構成です。本年1月18日の『まん延防止等重点措置の適用の要請等』についての記者会見のスピーチを例に挙げますと、最初に1都12県名を読み上げ、『各知事より、まん延防止等重点措置を適用するよう要請がありました。そして、関係大臣と議論したところであります』と、詳細な『起』の部分で始まり、『承』の部分として、専門家の意見を延々と紹介し、『転』の部分として政府としての判断の根拠を述べ、ようやく、『要請のあった区域について、まん延防止等重点措置適用の諮問を行うとの結論に至りました』と、『結』にあたる結論の一部が述べられます。
もう一つの結論、『明日、専門家による基本的対処方針分科会を開催し、国会にも御報告した上で正式に決定したいと思っています』は、ずっと後になって述べられます。
新聞の報道記事やテレビニュースの原稿は、起承転結とは逆の、結論→理由→詳細の順番で、作成されます。この構成であれば、聞いても、読んでも、分かりやすいからです。
また、岸田首相のスピーチ原稿には、お役所的な言い回しが多く見受けられます。一例は、『関係大臣と議論したところであります』で、『したところであります』は、お役所的かつ曖昧な言い方です。もし、『つい先ほど議論いたしました』と言いたいなら、そう言った方が、分かりやすいと思います」
Q.「スピーチ原稿に改善の余地はあるものの、答え方や内容は好感が持てる」との評価と思います。安倍晋三元首相は、記者会見の打ち切りや、国会での発言で物議を醸したこともありますが、岸田首相はそういった面に学んだところもあるのでしょうか。
山口さん「あると思います。岸田氏は、2020年の自民党総裁選に出馬して敗北を喫し、『岸田は終わった』と言われたこともありました。しかし諦めず、虎視眈々(たんたん)と総理の座をうかがっていました。この間、安倍氏を『反面教師』として学んだことは多いと思います。
しかし、礼儀正しい記者会見は、岸田氏の持ち味であり、人柄の表れでもあると思います。首相官邸ホームページの『総理の演説・記者会見など』に掲載された40本余りの動画を見て、私はこの思いを強くしました」
Q.菅義偉前首相は、言い間違いや原稿棒読みで批判されました。そこも意識していると思われますか。
山口さん「意識していると思います。菅前首相も岸田首相も、官僚や総理秘書官が書いた原稿を読んでいるという点に違いはありません。『原稿棒読み』と菅前首相が批判されたのは、記者会見などを通して国民とコミュニケーションを取ることに、心が入っていなかったからだと思います。だから、言い間違いも多発したのでしょう。岸田氏は、この批判を意識して、心を込めて原稿を読み、自分の思いを強くにじませて記者会見に臨んでいると思います」
Q.岸田首相の支持率が堅調なのは、記者会見の無難さも影響しているのでしょうか。
山口さん「質問によっては正面から答えようとしなかった菅前首相に対して、岸田首相はどんな質問にも丁寧に答えようとしているように見えます。この差は、国民にとっては非常に大きいです。また、岸田内閣発足以来100日をすでに超えていますが、この間、内閣のイメージを落とすような不祥事は報道されていません。内閣支持率が堅調なのは、これらに加えて、岸田首相の政治姿勢や政局運営が国民の支持を得ているからだと思います。
例えば、18歳以下のへの10万円給付や、新型コロナウイルスのオミクロン株に対する水際対策では、いったん打ち出した方針をすぐに修正し、批判が出ました。しかし、『間違った方針に固執するよりいい』との国民の評価も少なくありませんでした。また国会論戦でも、『礼儀正しさ』を徹底し、以前のような感情的な応酬が少なくなっていることも、国民に支持されている一つの理由だと思います」
Q.岸田首相の記者会見に望むことは。
山口さん「国内外で問題が山積しています。国内では、オミクロン株感染者急増への対策と経済との両立、対外的には、中国と北朝鮮をめぐるさまざまな問題などです。さらに、台湾、ウクライナ、イランをめぐる問題も、深刻化すれば、私たちにも影響は大きいと思います。これまでに増して丁寧で分かりやすい記者会見を心掛けていただきたいと思います」
(オトナンサー編集部)
コメント