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7月19日は平日、でもカレンダーは「海の日」 間違って欠勤したら自己責任?

7月19日の月曜日は平日ですが、カレンダーの多くは「海の日」と書かれています。勘違いして無断欠勤してしまう人が出た場合、本人だけが責任を問われるのでしょうか。

「海の日」を勘違いしたら…
「海の日」を勘違いしたら…

 7月19日の月曜日は平日ですが、国内で出回っているカレンダーの多くに「海の日」と書かれており、「祝日扱い」となっています。今年の海の日は東京五輪開会式予定日の前日、7月22日に移動しているのですが、祝日移動の決定時には既に、多くのカレンダーの印刷が終わっており、修正が間に合わなかったためです。

 内閣府や自治体がホームページなどで注意を呼び掛けていますが、ネット上では「7月19日、無断欠勤する人がいそう」「カレンダーを書き直さなきゃ」といった声が上がっています。どういう経緯でカレンダーを巡る混乱が生じたのでしょうか。また、本当に無断欠勤してしまう人が出た場合、本人だけが責任を問われるのでしょうか。

 芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

基本は自己責任、でも寛容な措置期待

Q.そもそも、祝日はどうやって決まっているのでしょうか。

牧野さん「日本の祝日は『国民の祝日に関する法律』で定められており、その日付(もしくは日付の決め方)と趣旨が条文に書かれています。例えば、1月1日は『元日』で『年のはじめを祝う』、『成人の日』は1月の第2月曜日で『大人になったことを自覚し、自ら生き抜こうとする青年を祝い励ます』といった内容です」

Q.今年の祝日が移動した経緯を教えてください。

牧野さん「東京五輪の開・閉会式前後の交通混雑緩和などのため、東京五輪・パラリンピックに関する特別措置法の32条2項の規定に基づき、2021年に限り、海の日、スポーツの日、および、山の日について、次に挙げる通りに移動することが2020年11月27日に決定しました(国会での成立日。公布12月4日)。

通常、7月の第3月曜日の海の日が7月22日、10月の第2月曜日のスポーツの日が7月23日、8月11日の山の日が8月8日に、それぞれ移動しています。7月23日は東京五輪の開会式が予定されている日で、8月8日は閉会式の予定日です。8月8日は日曜日で、翌日の8月9日は振り替え休日となりますので、結果として、土日祝日が休みの人は7月22日から25日が4連休、8月7日から9日が3連休となります」

Q.昨年、2020年も祝日が移動していたと思いますが、今年のような混乱はなかったと思います。なぜでしょうか。

牧野さん「確かに2020年も、海の日、スポーツの日、山の日が移動していました。東京五輪・パラリンピックを2020年夏に開催する予定だったためです。しかし、その祝日移動については、2018年6月という、かなり早い時期に決定していたため、今年のような混乱はなかったと思われます。

カレンダーや手帳を製作する会社は一般的に、毎年2月に国立天文台が翌年の『暦要項(れきようこう)』を発表するのを受けて、翌年のカレンダー、手帳製作を本格的に始めるそうです。歴要項には、年によって移動する祝日(春分の日など)を含む『国民の祝日』や二十四節気といった情報が掲載されているからです。

つまり、2020年のカレンダー製作は2019年2月本格開始なので、2018年6月に決まっていた祝日移動を盛り込めたわけですが、2021年分については2020年2月には既に製作が本格化しており、同年秋には多くが店頭に並んでいました。

東京五輪・パラリンピックが新型コロナウイルスの世界的流行によって、1年延期されることが決まったのが2020年3月で、祝日移動が決まったのが先述したように2020年11月ですから、当然、多くのカレンダーや手帳の修正は間に合わず、移動前の祝日を載せたカレンダー、手帳が皆さんの手元にあるわけです」

Q.内閣府などが注意喚起をしていますが、祝日移動に関する周知というのはそもそも、誰が責任を持つものなのでしょうか。また、周知不足で社会に混乱があった場合、誰が責任を負うものなのでしょうか。

牧野さん「基本的には、祝日の変更を行ったのは政府ですので、祝日の変更を周知するのは政府に責任があると思います。カレンダーや手帳の祝日が実際の祝日と異なっているので、7月19日について、『祝日と思っていたが、就業日であって、無断欠勤してしまった』という人が出てくるかもしれません。

ただし、混乱が生じ、何らかの損害が発生したことが証明されても、一般に広く告知されていれば、基本的には損害賠償(不法行為責任)を政府やカレンダー・手帳製作会社へ求めることは難しいでしょう」

Q.7月19日が祝日ではなく平日ということで、ネット上では「カレンダーがそのままだから、間違って無断欠勤しそうだった」という声が実際にあります。当日まで気付かず、本当に無断欠勤してしまった場合、自己責任となるのでしょうか。例えば、社内のカレンダーが修正されておらず、社内周知を全くしていない会社だったらどうでしょうか。

牧野さん「一般的には、会社から正しい就業日が社員へ告知されると思いますので、意外と無断欠勤は少ないと思いますが万が一、気付かないで無断欠勤してしまった場合、欠勤分を有給休暇に切り替えることを社員に促すなど、会社側の寛容な措置を期待したいところです。

一方、政府やカレンダー・手帳製作会社の責任を問えるかというと、これだけ報道などでも騒がれていますので、本人が調べる注意を怠った(本人にも過失がある)ということで、先述したように、損害賠償(不法行為責任)を求めることは難しいと思われます」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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