交通事故、火災、病気…コロナ禍の年末年始、各種リスクへの備えを!
世の中のさまざまな事象のリスクや、人々の「心配事」について、心理学者であり、防災にも詳しい筆者が解き明かしていきます。

早いもので今年もあとわずかですが、皆さま、いかがお過ごしでしょうか。間もなく迎える楽しい年末年始ですが、この時期は一年の中でもいろいろな意味で、最もリスクが高くなる時期でもあります。特に、今年は例年以上に気を付けた方がよさそうです。その理由について、お話しします。
医療逼迫がコロナ以外にも影響
まず、この時期は交通事故のリスクが高まる要因がとても多いです。警察庁の事故統計でも、12月は交通事故が最も多い月です。仕事納めに向けて仕事関係の車が多く、そして、慌ただしく走るようになり、休みが始まると帰省や旅行で、普段はあまり車を運転しない人が慣れていない道を運転します。加えて、気温が低い時期でもあり、場所によっては降雪や路面凍結によって滑りやすくなります。
通常時でも、夜間は重大事故が起こりがちですが、12月下旬は一年で最も夜が長い時期でもあります。そして、忘年会シーズン、酔っぱらいも増えてきます。今年はコロナ禍の影響で繁華街は静かかもしれませんが、その分、家飲みやオンライン飲み会が増えそうなので、繁華街以外で酔っぱらいが歩いている確率は上がるかもしれません。
火災も増える時期です。冬場、太平洋側では雨が少なく、空気が乾燥します。灯油やガスを使う暖房器具はそれ自体が火気です。また、電気を使う暖房器具は消費電力が大きく、間違ったたこ足配線などによって発火リスクが高まります。太陽高度が低いこの時期は日光が部屋の奥まで差し込むので、ペットボトルなどがレンズとなって発生する「収れん火災」と呼ばれる火事が多い時期でもあります。こたつで、うたた寝している間に吸い殻がぽとり、などということもこの時期ならではかもしれません。
病気のリスクも上がります。屋外と屋内、脱衣所とお風呂など、温度差が大きいところを行ったり来たりすることで、血圧も乱高下を繰り返し、他の季節に比べて、心臓や脳の血管が詰まる、出血するなどの事例が多発します。冬の気温や湿度の低さはウイルスの感染力を高めてしまうと同時に、低温によって、人間の免疫機能を低下させ、空気の乾燥は異物を体外に排出する線毛の動きを低下させます。従って、感染症リスクも上がります。
台風や洪水など気象災害のリスクは、冬場は少ないと思われがちです。太平洋側は確かにその通りなのですが、豪雪地帯では雪下ろし中に転落するなどして、毎年、たくさんの人が亡くなったり、大けがをしたりしています。雪下ろしによる死者を災害の犠牲者と見るかは議論の残るところですが、もし、災害による死者としてカウントするなら、大地震や記録的な洪水などがあった年を除いて、豪雪は最もたくさんの人たちが亡くなる災害だといえます。
年末年始は自分自身でもリスキーな行動をしがちかもしれません。忘年会や新年会は例年通りにはできないかもしれませんが、お酒好きの人は自宅でもついつい飲みすぎてしまう時期でもあります。そして、餅を喉に詰まらせて亡くなる事例のほとんどすべてがこの時期に集中しています。
このように、年末年始は普通の年でもさまざまなリスクが高まります。これに加えて、今年は新型コロナウイルスが猛威を振るっています。いつもの年なら、けがや病気、餅の詰まりなどのトラブルが起きても、迅速で適切な医療が受けられるかもしれません。しかし、今年はコロナ禍によって、医療現場は逼迫(ひっぱく)しており、設備も人も足りていません。いつもより遠くの病院に搬送されるかもしれないし、ひょっとすると、いつまでも受け入れてくれる医療機関が見つからないかもしれません。
リスクを低下させるには、速度を落として車を運転する、暖房器具を点検して正しい使い方をする、家の中の寒暖差をなくす、加湿する、屋根の上では安全帯(あんぜんたい)を使う、お酒を飲み過ぎない、餅を小さく切るなど、ちょっとした工夫をすることが大切で、それらは自分でもできます。各自が工夫して、コロナ以外で病院に運び込まれる人を減らすことは自分自身だけでなく、逼迫した医療現場を守ることにもつながります。今年の年末年始はいつもの年以上に気を付けて、どうぞ安全にお過ごしください。
(名古屋大学未来社会創造機構特任准教授 島崎敢)
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