オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

妊娠と「アルコール」 気付かず飲んでしまったら? 産後はいつからOK?

妊娠中の飲酒は胎児への悪影響の懸念から禁じられていますが、「ノンアルコールビールは大丈夫かな?」という声もあります。産後の注意点も含めて、産婦人科医に聞きました。

妊娠中の飲酒は禁じられているが…
妊娠中の飲酒は禁じられているが…

 妊娠中は食事や行動にさまざまな制限がかかりますが、中でも明確に禁止されているのは「アルコール」の摂取です。妊娠中の飲酒は胎児に悪影響をもたらすことが知られていますが、ネット上では「ノンアルコールビールは大丈夫かな?」「妊娠に気付かずに飲んでしまったらどうなるの?」など気にする声が多くあります。また、産後の飲酒についても「いつから飲んでもいいの?」「お菓子に入っている洋酒は?」など疑問を持つ人が多いようです。

 妊娠中から産後にかけて注意したい「アルコール」との付き合い方について、産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

アルコールで発育遅延や成長障害

Q.妊娠中の飲酒、アルコールの摂取が禁止されているのはなぜですか。

尾西さん「妊娠中に飲酒をすると、胎盤を通じてアルコールが赤ちゃんの体内に入り、さまざまな悪影響を及ぼすためです。アルコールの摂取は子宮内での胎児の発育遅延や成長障害、精神発達遅延、多動障害、独特の顔つきになる『頭蓋顔面奇形(特異顔貌)』、心奇形(心臓の構造の異常)などを引き起こす『胎児性アルコール症候群』を来す他、早産や流産の原因にもなります」

Q.妊娠中、ノンアルコールビールは飲んでもよいのでしょうか。

尾西さん「ノンアルコールビールには『全くアルコールを含まないもの』と『アルコールを1%未満含んでいるもの』の2種類があります。全くアルコールを含まないものは飲んでも問題ありませんが、1%未満でもアルコールを含んでいるものは、実際のアルコール濃度が分かりません。例えば、ビールには通常4~5%程度のアルコールが含まれているので、ノンアルコールビールに1%弱のアルコールが含まれているとすると、4、5本飲めばビール1本の飲酒をした場合と変わらないことになります」

Q.「洋酒入りのお菓子」など微量のアルコールを含んだ食品の場合はどうでしょうか。

尾西さん「一般的に、先述の胎児性アルコール症候群を来した赤ちゃんは大量のアルコールを常習している母親から生まれています。そのため、『うっかり洋酒入りのお菓子を食べてしまった』『調味料として酒やみりんを使用した』程度であれば問題ありません」

Q.何らかの理由で妊娠に気付くのが遅れ、「うっかりお酒を飲んでしまった」「妊娠に気付くまでずっと飲酒をしていた」というケースもあるようです。このような場合、母体や胎児にはどのような影響が考えられますか。

尾西さん「妊娠に気付く時期にもよりますが、妊娠4週(生理予定日くらいの時期)までは、もし胎児への影響があった場合は流産という形になり、妊娠に気付かないまま生理が来ます。影響がなかった場合は、妊娠に気付いた後に飲酒をしなければ赤ちゃんへの影響はありません。

4週より後は赤ちゃんの神経や臓器、器官が作られる大切な時期です。この時期にアルコールを摂取すると、エタノールやその代謝物が胎盤を通して胎児の細胞の増殖や発達を妨害し、さまざまな悪影響を及ぼす恐れがあります。特に妊娠の初期では、先述した頭蓋顔面奇形やその他の奇形が起きる可能性があります。妊娠の中期・後期に影響があると発育遅延や発達障害などが現れます。

『毎日ではなく、たまになら…』と考える人もいるかもしれませんが、『たまに』であっても、大量に飲酒した母親から生まれた赤ちゃんに胎児性アルコール症候群の症状がみられたという報告もあるので注意が必要です」

Q.一般的に産後、飲酒をしても問題ないのはいつごろからですか。授乳している場合とそうでない場合とで異なるのでしょうか。

尾西さん「産後、授乳している場合は飲酒を控えた方がよいでしょう。というのも、母乳へのアルコール移行の割合は非常に高く、母親の血中濃度と母乳のアルコール濃度は同程度になるからです。これについては厚生労働省も『アルコールは授乳中の母乳に入り、乳児の発達を阻害します』と注意喚起をしています。どれくらいの量でどのような影響が出るかなどの詳しいことは分かっていないため、可能であれば禁酒をおすすめします。

ただ、『飲酒をしたいから母乳は断念する』というのは本末転倒です。母乳にはメリットが多い上、母乳中のアルコールは飲酒2時間後をピークにその後、低下していくため、お酒を飲んだ場合には『飲酒後、授乳までに2時間空ける』ことが海外の報告などで推奨されています。

飲酒は赤ちゃんへの影響だけでなく、母乳を作るためのホルモンである『プロラクチン』の分泌も抑えてしまうため、母乳の量や授乳時間が短くなってしまいます。また、授乳を全くしない場合も、産後すぐは飲酒をしないようにしましょう。アルコールによって産後の出血が増えたり、傷の治りが悪くなったりするからです」

Q.妊娠中から産後にかけての「アルコール類との付き合い方」について、アドバイスをお願いします。

尾西さん「先述のように、『妊娠に気付く前にワインを飲んでしまった』『食べたお菓子にアルコールが入っていた』といった程度なら心配することはありません。ただ、妊娠中・産後の飲酒量には、安全性が確立された量というものがなく、少量でも胎児に影響を及ぼす可能性があるので、『妊娠の可能性があるなら禁酒する』ことが肝心です。お酒が好きな人にとってはつらいと思いますが、妊娠期間はたったの10カ月です。この期間は赤ちゃんのために頑張りましょう。中には、この期間のおかげで禁酒に成功したという人もいます。

産後の飲酒については、授乳をしている場合は控えた方がよいのはもちろんですが、どうしてもという場合は、飲酒の前に授乳、または搾乳をして、飲酒後はしっかり時間を空けてから授乳させましょう。授乳中は脱水によりアルコールが回りやすいので、水をチェイサーとして飲むなどして飲み過ぎ・脱水に気を付けましょう。授乳をしていない場合は、産後1カ月の健診が終われば飲酒をしても問題ありませんが、久しぶりの飲酒で酔いやすいこともあるので、飲み過ぎないように注意しましょう」

(オトナンサー編集部)

尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(神谷町WGレディースクリニック院長)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性の全ての悩みに応えられるかかりつけ医として、都内の産婦人科クリニックに勤務。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

コメント