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話題を振る勇気なく…アラフォー世代は「親の老後」を見て見ぬふり?

アラフォー世代は、親の老後の備えをそろそろ考えないといけませんが、差し当たっての必要性に迫られていないので、つい後回しにしてしまうようです。

「親の老後」への備えは?
「親の老後」への備えは?

 親が高齢になってくると、親の生活や介護の心配が出てきます。公益財団法人生命保険文化センターが行った「2018年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護経験がある人の割合は、29歳以下から40~44歳までは大差がない(4~7%)のですが、45~49歳はグッと上がって13.4%、50~54歳では20.2%となっています。また、介護した相手で最も多いのは「自分の親」(9.5%)で、次いで多いのが「配偶者の親」(3.8%)ということです。

 介護経験の割合が比較的少ないアラフォー世代は、親の老後にどれくらいの関心を持っているのでしょうか。また、親の老後に向けてどのような備えをしているのでしょうか。彼らの話を聞いた中から、2人の事例を紹介します。

親の老後に実感が持てず…

 都内在住のAさん(39歳、女性)は年に1度、家族とともに兵庫県の実家に帰ります。両親はともに60代前半で、健康です。

「目尻を下げて、孫(Aさんの子ども)に接している両親を見ていると『年を取ったな』と感じます。結婚後、両親と会うのは毎年お正月だけになったのですが、結婚前に実家で一緒に住んでいた頃の両親の姿が私の中に定着していて、『両親が年を取った』という事実になかなか慣れず、お正月のたびにそれを事実として確認している感じです」(Aさん)

 親の老いはゆっくりではありますが、確実に進みます。その変化にAさんは戸惑いつつも、なじもうと努力しているようです。

 Aさんは親の老後について、どう考えているのでしょうか。

「準備をしなければという気持ちはあります。けれども、実際に何か行動に移していることはまだありません。『親の老後』に対して、いまひとつ実感を持てないのが一番大きな原因かなと思います。

老後のことについて、両親と話した方がいいという気持ちもあるのですが『老後の蓄えはきちんとしているから心配するな』と父から言われていますし、父は『経済的にわが子には頼りたくない。経済的な弱みも見せたくない』という性格で、こちらから、老後の話題を振るのも何となく勇気が必要で、結局は言わずじまいのまま、今まできています」

「いつか、きちんとしなければならない」と頭では分かっていても、差し当たっての必要性に迫られていないので、つい後回しにしているというAさんでしたが、今回話を聞いた中では、アラフォー世代にはこうした状態の人が多いという印象でした。

生前贈与分を親の老後資金に

 Bさん(42歳、男性、独身)は5年ほど前から、父から毎年少しずつ生前贈与を受けています。これをきっかけに、Bさんは親の老後について考えるようになりました。

「父自身が親からの相続で兄弟と相当もめたそうで、『こんな思いを子どもたちにさせてはならない』と感じ、自分の遺産相続については生前にきっちりしておこうと動き始めました。生前贈与はその一つです。

父から、『遺産は(民法の原則通り)妻(Bさんの母)に2分の1で、残りを弟と2等分してほしい』と言われています。特に一時期、遺産相続についての話を父からよく聞いていたので、『親の老後』というよりは『親の死後』の方を強く意識していました」(Bさん)

 そして、実際に初めての生前贈与が行われた年。Bさんは口座にお金が振り込まれているのを見て、戸惑いを覚えたと言います。

「相続税対策だと分かっているつもりだったのですが、正直、戸惑いました。実際にそうしたお金をもらっても、『何かに使おう』という気になれませんでした。私自身にも収入があるから、取り立てて必要のないお金ですし、『父の死』に関連するお金なので、父が生きているうちに手を付けることは不謹慎に思えたのです」

 そこで、Bさんは贈与された分をそっくりそのまま、親の老後資金として貯金することにしました。後で弟と話をすると、相談したわけではありませんでしたが、弟も全く同じことをしていたようです。

 その後、かねて引っ越しを検討していたBさんは、実家から電車で30分ほどかかる家を引き払い、実家へ徒歩5分の場所に移り住みました。

「手狭になってきていたので、もっと広い部屋を探していました。独身なので、こういうときは身軽でいいですね。結婚したら、また引っ越すかもしれませんが、そのときはそうなったらで考えます。

親の老後に備えた貯金を始めてから、『親の死後』に加えて『親の老後』も少しずつ考えるようになりました。介護にはまだほど遠いものの、両親も年相応に不調が出てきているようです。『近くに住めば何かと安心』と思い、それが新居の決め手になりました」

 兄弟のうちの誰かが実家の近くに住居を構えるというのも、親の老後に向けた具体的な備えの一つです。Bさんは貯金と近所住まいの二段構えで、親の老後に備えているようです。

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武藤弘樹(むとう・こうき)

フリーライター

早稲田大学第一文学部卒。広告代理店社員、トラック運転手、築地市場内の魚介類卸売店勤務などさまざまな職歴を重ね、現在はライターとミュージシャンとして活動。1児の父で、溺愛しすぎている飼い猫とは、ほぼ共依存の関係にあるが本来は犬派。趣味はゲームと人間観察。

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