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「怒らず叱る」「親の言葉で」 王道のしつけは正論、でもこだわり過ぎは疲れる

「怒る」のではなく「叱る」、「他人の力を借りずに親の言葉でしつけを」…これらは「王道」のしつけですが、そこにこだわっていると疲れてしまいます。

(C)あべゆみこ
(C)あべゆみこ

 子育て本を読むと「『叱る』と『怒る』は違います。怒らないで、叱りましょう」と書かれていることがあります。料理が苦手な新米ママが「パプリカと赤ピーマンは違います」「カレイとヒラメを見分けなさい」と要求されているような感じで、とても難しいです。また、「他人の力を借りてしつける」ことも、よくないと書かれていることが多いです。「親の責任で、親の言葉でしつけましょう」ということです。

 これらは確かに正論です。「王道」のしつけといっていいでしょう。でも、そこにだけこだわっていては疲れてしまいます。

わが子だからこそ怒ってしまう親

(C)あべゆみこ
(C)あべゆみこ

 そもそも、「叱る」と「怒る」の違いは何でしょうか。「怒る」とは、腹を立てて感情的になり、自分のイライラを相手にぶつけることです。自分の腹の虫を治めるためなら、相手がどんな不愉快な思いをしようと関係ないわけです。一方の「叱る」とは相手のためを思い、よりよい方向に導くために教え諭すことです。

 保育園や幼稚園の先生は園にいるとき、保育以外の自分の仕事や家事に追われることはありません。食事の献立も調理も栄養士がしてくれます。先生は子どもの世話そのものが仕事ですから、それだけに集中することができます。そのため、物を散らかしている園児に「もうすぐ給食だから、それまでにトイレと手洗いを済ませておきましょう」「そろそろお片付けの時間ですよ」と冷静に教え諭すことができます。

 しかし、親は家で掃除や洗濯、料理、買い物、自分の仕事などに追われながら子育てをしていて、保育園のようにはいきません。それに、わが子だからこそ、親としての責任や愛情といったさまざまな感情が入り乱れ、つい声を荒らげてしまいます。そこには「怒る」と「叱る」の違いを使い分ける気持ちの余裕なんてありません。最初は冷静に叱っていたつもりでも、次第に感情が高ぶって怒り始めるなど、ハードルが高いです。

 そして、一方の子どもは「叱られる」「怒られる」「注意される」「指摘される」を同じように感じているのではないでしょうか。教育のプロではなく、「叱る」と「怒る」の区別がまだできていない親からの叱責(しっせき)は、どれもこれも代わり映えしないかもしれません。

ストレスなくしつけるには?

(C)あべゆみこ
(C)あべゆみこ

 もう一つの「王道」ですが、「他人の力を借りてしつける」ことも、一般的には「よくない」とされています。

 例えば、電車で子どもが騒いだとき、「ほら、運転士さんに怒られちゃうよ」「ほら、前のおじさんが怖い顔をしてにらんでいるよ」「だから、静かに座っていようね」などと叱ったこともあるでしょう。この叱り方は「ママはあなたが騒ぐのは悪いことだとは思っていないけれど、他の人は怒っているのでやめておこう」と伝えているのと同じ。つまり、責任転嫁です。親の言葉がそこにないからです。

 また、一呼吸置こうと「ママ怒るよ」と子どもに予告している人もいますが、既にその顔は鬼のようになっていることもあります。このように、親自身の言葉だけで子どもをおとなしくさせるのはなかなか難しいことでもあります。そのようなとき、どうすればよいのでしょうか。

 私の息子は知的障害のある自閉症ですので、もしかしたら、参考にならないかもしれませんが…叱るときの具体例をお話ししましょう。

 以前、こんなことがありました。息子が朝起きるなり、趣味であるトイレの型番を書くことに熱中しているので、「遅刻するよ。早くご飯を食べなさい」と注意しました。すると、息子はキレてしまい、床をものすごい勢いで蹴り、自分の腕を思い切りかんで自傷したのです。そこで淡々と次のように伝えてみました。

「家を壊すと、工事の人に来てもらわなくてはならないね。もしかして、『壊したので引っ越ししてください』と言われるかもしれないよ」

 息子はものすごく不安そうな顔をして、「引っ越ししたくない! 引っ越ししたくない!」と、また騒ぎ出しました。

 私がさらに追い打ちをかけるように「お母さんもこの家に住んでいたいけれど、仕方のないことでしょ。もしかしたら、引っ越しになるかもしれない」と伝えると、息子は「お母さん、工事の人に電話しないで」と懇願してきました。私は「電話しなくても、さっきの音を聞いて業者がやってくるかもしれない。お母さんの力ではどうしようもないんだよ」と言いました。

 脅しといえば脅しなのですが、架空の第三者を入れることで、親子の「注意する→叱られてやめる」の上下関係でなくなり、親もストレスなくしつけることができました。

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立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。自閉症スペクトラム支援士。著書は「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」(日本実業出版社)、「はずれ先生にあたったとき読む本」(青春出版社)、「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」(すばる舎)、「動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな」(小学館)など多数。日本医学ジャーナリスト協会賞(2019年度)で大賞を受賞したノンフィクション作品「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社、小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)、Voicy(https://voicy.jp/channel/4272)。

コメント

1件のコメント

  1. 子供は一度で覚えないものだから、何度も繰り返し言う。
    あと、叱る時に簡単な体罰を与えると、その時のショックと一緒に覚えるので教育に役立つ。
    簡単な体罰とは、自分の手のひらに子供の手を乗せてパチンと叩く。
    これだけでも子供はショックを受ける。
    そして順序よく、やってはいけない事をきちんと教える。