コロナウイルスを「正しく怖がりましょう」と専門家、正しく怖がるとは?
新型コロナウイルスに対して専門家から、「正しく怖がりましょう」という言葉をよく聞きます。具体的に、どのように怖がることなのでしょうか。
新型コロナウイルスによる新型肺炎の感染が広がっています。国内の街中で感染が拡大する「市中感染」が懸念される中、感染症の専門家らから、新型コロナウイルスに対して「正しく怖がりましょう」という言葉を何度も聞きます。ただ、「具体的にどのように怖がることだろうか」と思う人も多いのではないでしょうか。
新型肺炎を「正しく怖がる」とはどういうことなのか、新型コロナウイルス対策などについて医療機関を取材している、医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。
科学的な根拠に沿って対応すること
Q.「正しく怖がりましょう」と医療関係者が発信するとき、どのような思いが込められているのですか。
森さん「『正しく怖がりましょう』という言葉には、イメージや感情に左右されることなく、『正しい知識に基づき、現在の状況と冷静に向き合ってほしい』『現在できることをしっかり実行してほしい』という思いが込められています。
病気の検査や治療などの医療技術は、臨床試験による科学的な根拠を積み上げることで確立され、進歩しています。また、継続的に観察し統計を取ることで病気の動向を把握したり、効果を測ったりしています。
一方で、私たちは病気と向き合うときに、生命を脅かされるかもしれないという怖さを感じたり、痛みや副作用の苦しさに対するマイナスの感情を持ったりと、心理的な側面から“科学を見失う”場合があります。そこで“科学的な根拠”に沿って対応してほしいとの思いから、医療関係者は『正しく怖がりましょう』と発信するのです」
Q.そもそも、「正しく怖がりましょう」という言葉には、どのような由来があるのでしょうか。また、いつごろから使われるようになったのですか。
森さん「戦前の物理学者で随筆家の寺田寅彦氏が書いた『ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた』という一文が元になっているようです。少しニュアンスが変化した使い方も含め、東日本大震災以降、よく耳にするようになりました。
医療に関連したケースでは、人への健康被害をもたらす『ヒアリ』が上陸したときに言われましたし、感染症について語られるときなどにも使われるフレーズです」
Q.今回の新型肺炎をどう捉えればよいのでしょうか。
森さん「今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、少しずつ病気の特徴や経過が分かってきました。発熱、せき、筋肉痛、倦怠(けんたい)感など、風邪やインフルエンザのような症状が1週間程度続き、その後回復する、あるいは無症状というケースが大半です。
高齢者や、糖尿病、高血圧、腎臓病などの持病を持っている人などでは、風邪症状が続いた後に強い倦怠感や呼吸困難などの肺炎症状が出てくる場合もあり、高齢者の約1割が重症化するのではないかと考えられていて、中国湖北省以外での致死率は、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)より低いと見られています。
中国湖北省での死亡者の増加や、世界の広い地域に感染が拡大していること、国内でも感染経路が分からない感染者が出ていることを受け、『怖い』と感じる人は多いと思いますが、病気としての特徴は、国の専門家会議でも“少し長めの風邪かインフルエンザ”という共通認識のようです。特別なリスク因子がない限り、新型コロナウイルス感染症をそう捉えればよいのです」
Q.では、どのように行動したり、どのような心構えでいたりすることが「正しく怖がる」ということでしょうか。
森さん「風邪の症状があれば、まずは自宅で療養することです。37.5度以上の発熱が4日続いた場合は『帰国者・接触者相談センター』に連絡することが望ましい(=正しい)対応です。
高齢である▽抗がん剤治療をしている▽持病がある▽妊娠しているといったハイリスクに該当する人は、熱が2日続いた場合は相談、強いだるさや息苦しさがある場合はすぐに相談するよう目安が示されました。
逆に、発熱した時点で慌てて医療機関に駆け付ける、高齢なのに長らく様子を見てしまうといったことは、望ましくない(=正しくない)行動ということになります。また、特に症状がなく疑わしい接触がない人においても、普段から丁寧に手洗いをし、可能な限り人混みを避け、十分な栄養と睡眠を取って予防に努めることが求められます」
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