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32歳ひきこもり長男を無年金の危機から救う「追納」「全額免除」制度

追納以外にも方法がある

全額免除も併用した場合の年金概算表
全額免除も併用した場合の年金概算表

 追納以外にも気になる点があったので、母親に尋ねました。

「ご主人が亡くなった後、ご長男は現在も納付猶予を続けているのでしょうか?」

「はい。今も納付猶予のままだと思います」

「仮に、ご長男が全額免除の条件に該当すれば支払保険料は0円になり、老齢基礎年金は通常の納付をした場合の半分がもらえます。つまり、納付猶予よりも全額免除の方が断然有利ということです。もちろん、全額免除に該当するかどうかはご家族の所得審査があるので必ず認められるものではありません。しかし、ご主人が亡くなった後の家計の状況からすると、全額免除に該当する可能性が高いと思われます」

 筆者は、全額免除と追納を併用した表を作成しました。

「納付猶予から全額免除に切り替えることで、ご長男の老齢基礎年金は増えていきます。仮に追納しなかった場合でも月額約3万円はもらえそうです。追納の相談は年金事務所で受け付けていますので、そこで追納と全額免除の相談を一緒にしてしまいましょう。なお、全額免除の手続きにも時効がありますので早めに行動してくださいね」

「いろいろと助言をしていただき、どうもありがとうございました。さっそく年金事務所へ相談に行こうと思います」

 やっと母親は笑顔を見せました。

 ひきこもりのお子さんを抱えるご家族から、「年金制度は複雑なのでよく分からない」と聞くことがあります。しかし、よく分からないからと放っておいても何もよいことはありません。「お子さんにとって最もよい選択肢は何なのか」。ご家族だけで判断することが難しい場合、専門家も交えて検討していく必要があるかもしれません。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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