油揚げがのったおそば 関東は「きつね」、関西はなぜ「たぬき」? 関東でたぬきは天かす
関東では、油揚げがのったうどんやそばを「きつね」と呼びますが、関西では、油揚げがのったそばを「たぬき」といいます。なぜでしょうか。
関東では一般に、油揚げがのったそばやうどんを「きつね」、天かすがのったものを「たぬき」と呼びます。一方、大阪では、「きつね」というと油揚げのうどんだけを指し、「たぬき」は油揚げがのったそばのことをいいます。「油揚げがのっているのだから『きつねそば』では?」と思いますが、なぜ関西では、「たぬきそば」になるのでしょうか。料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。
天かすがのった「たぬき」は関東発祥
Q.そもそも、油揚げののったものを「きつね」、天かすののったものを「たぬき」と呼ぶのはなぜですか。
関口さん「諸説あるようですが、『きつね』については明治時代、大阪市船場のうどん店『松葉屋』が考案したとされています。キツネが、農耕や商売繁盛の神様である稲荷神のつかいで、油揚げが好物であることから、油揚げののったものを『きつね』と呼ぶようになったようです。油揚げの色が、きつね色をしているからという説もあります。
『たぬき』については、天かす(揚げ玉)をのせたものを指します。発祥は関東で、江戸時代の終わりに、イカのかき揚げをのせたものが始まりとされています。天かすには具(タネ)がないことから、『タネを抜いた=タヌキ』という説や、天かすが色の濃いだし汁を吸ってたぬき色に見えるという説、発祥店との説がある、きぬた屋の『きぬたそば』が逆さまになって『たぬきそば』という説もあります」
Q.関西では、たぬきそばは油揚げがのったものを呼びます。関東であれば、きつねそばであるところ、どうしてでしょうか。
関口さん「『きつねうどん』は関西が発祥で、そのまま関東でも広まりました。しかし、関東では、うどんであってもそばであっても油揚げがのったものを『きつね』というのに対し、関西では、関東発祥の天かすをのせる『たぬき』の認知が広がらなかったからです。むしろ関西では、『うどんがきつねなら、そばはたぬきだろう』というように、麺の種類で呼び方が定まったようです」
Q.関西で、天かすをのせたうどんやそばは存在するのでしょうか。
関口さん「関西では、天かすをのせたものは『ハイカラ』と呼ばれています。関東から広まった天かすをのせるメニューは、関西では大正時代に定着したようです。『捨ててもいいような天かすを入れるなんて、関東の人はハイカラやな~』と皮肉を交えた名残で呼び名が付いたそうです」
Q.同じ関西でも京都では、きつねとたぬきの呼び方が他の地域とは異なるようです。どのようなものがきつねで、どのようなものがたぬきですか。
関口さん「京都では、公家文化の影響で上品な食べ方を求められたことから、油揚げは2センチ幅の短冊切りにし、九条ネギと一緒に細めんにのせて食べました。これが京都のきつねです。めんとだし、具材がバランスよく口に入るので食べやすく、芸者などの女性が油揚げにかぶりつかずに済むので、こうした形になったという説があります。
一方、たぬきは、きつねにあんをかけたものを指します。『きつねがたぬきにドロンと化ける』や『あんは湯気が立ちにくいが冷めにくく、食べると非常に熱いので化かされる』という意味で、たぬきといわれたとされています」
Q.関東と関西で、同じ料理でも呼び方が異なるものは他にあるのでしょうか。
関口さん「まずは、おでんです。元来、おでんは『御田(おでん)』といって、こんにゃくや豆腐を串に刺して、みそをつけて食べる田楽のことでした。今のような、だしで煮込むタイプは江戸時代中期からで、江戸周辺で大人気となり、それが関西にも広がって、田楽と区別するため、煮込み仕立てのものを関西では『関東煮(かんとだき)』と呼ぶようになったそうです。
また、関東では、魚のすり身の揚げ物を『さつま揚げ』と呼び、関西では『天ぷら』と呼びます。関東では、鹿児島県の特産ということで薩摩(さつま)揚げが定着しましたが、関西では、揚げ物全般を天ぷらとひとくくりに呼ぶようになったそうです。
最後に、開化丼と他人丼です。鶏肉と卵の親子丼に対し、豚肉や牛肉を使ったものを関東では『開化丼』と呼び、関西では、親子ではないので『他人丼』といいます。関東では、文明開化の時期に入ってきたタマネギと、江戸時代まで一般に食べられなかった牛肉にちなんで開化丼と命名されたようです」
(オトナンサー編集部)
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