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年金支払い、不平等相続…“家族への迷惑”自覚し、32歳ひきこもり男性が復帰するまで

必要なお金は2000万円と試算

長男が必要とするお金の試算
長男が必要とするお金の試算

 親亡き後、長男にはどのくらいのお金が必要になりそうなのか、ご家族と話し合いながら大まかに試算してみました。

 まずは、長男が1人暮らしをする期間ですが、平均余命を参考に、今から25年後に父親が亡くなり、30年後に母親が亡くなると想定しました。すると、長男が62歳のときから1人暮らしが始まります。長男は82歳まで存命と仮定すると、1人暮らしの期間は62歳から82歳までの20年間になります。

 次に、収入です。収入は老齢基礎年金のみ。国民年金保険料は父親が今までずっと支払ってきており、今後も支払う予定とのことでした。そこで、筆者は父親にある提案をしました。

「もし可能であれば、付加年金の加入も検討してください。老齢基礎年金に上乗せしてもらえる年金で、月400円の付加保険料を支払うと、将来もらえる付加年金が年額200円ずつ増えていきます。仮に32歳から60歳まで付加保険料を支払うと、200円×12カ月×28年=6万7200円年金が増え、1カ月当たり5600円となります。長男が65歳になったとき、老齢基礎年金と付加年金を合わせて月額約7万円の収入になります」

「そうなんですね。長男と話して付加年金の加入も検討してみたいと思います」

 収入は付加年金込みで試算しました。

 最後に支出について、親亡き後も自宅に住み続けるものとして、基本生活費と住居費を合わせて月額13万円としました。以上のことを踏まえ、長男のお金の見通しを立てると表のようになりました。赤字額の合計は468万円+1224万円=約1700万円。これにリフォームや急な入院などの一時的な支出を含めると、2000万円くらいのお金が必要になりそうです。

 そこで、ずっと黙って聞いていた長女夫婦に筆者は質問をしてみました。

「このままでは、ご長男にほとんどの財産を相続させることになりそうです。不平等相続についてご不満はありませんか?」

 すると、長女から意外な答えが返ってきました。

「その点については問題ありません。私たち夫婦は共働きですし、これからも何とか生活できると思います。以前、主人とも話しましたが、不平等相続について異論はありません」

 ご主人は同意を示すように無言で小さくうなずきました。

「そうなんですね。では不平等相続になっても構わないということは、ご夫婦から直接ご長男に伝えてあげてください。その方がご長男にもしっかり伝わると思います」

「はい。分かりました」

 そう答える長女をよそに、父親は浮かない顔をしていました。

「仮に、長男にすべての財産を相続させたとしても、これだけのお金を残せるかどうか…」

 確かに、両親の老後資金を考えると、長男に2000万円も残すことは難しそうです。そこで、筆者は提案しました。

「ご長男は『正社員じゃないと生きていけない』と話しているそうですが、正社員でなくても何とかなるかもしれません。例えば、60歳までの28年間、パートなどで月3万円の貯蓄ができれば、3万円×12カ月×28年で約1000万円。月4万円なら、4万円×12カ月×28年で約1340万円になります。不平等相続に関してご家族の理解と協力があるので、正社員にこだわらなくても何とかなる可能性は高そうです。もちろん、それはご長男の気持ち次第ですが…もしよろしければ、ご長男を含めた家族会議に私も参加しましょうか?」

「いえ、それは大丈夫です。私たち家族だけでしっかりと話し合いたいと思います」

 そう答える父親からは、強い覚悟が感じられました。

「分かりました。それでは、本日のお話しを踏まえた家族会議用の資料を作成し、後日ご郵送いたします」

 資料を送った後、家族からの連絡はないまま月日が過ぎ、4年ほど過ぎたある日、母親から電話がかかってきました。

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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