「許せない」「殺人未遂?」 赤ちゃんの抱っこひもをわざと外す行為に怒り、法的には?
けがをしなかった場合は?
Q.一方で、故意に抱っこひもを外されたものの、赤ちゃんがけがをしなかった場合はどうでしょうか。
井上さん「状況によって、問うことのできる法的責任は変わってきます。抱っこひもを外すと赤ちゃんが転落してけがをする状況で、『赤ちゃんにけがをさせよう』と思って抱っこひもを外したケースでは、暴行罪にあたるかが問題となります。法律的には、暴行罪が成立する要件として『人の身体に対する不法な有形力の行使』が必要と考えられています。
そのため、抱っこひもを外すことが『赤ちゃんの体に対するもの』と評価できる場合は、暴行罪(2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)が成立する可能性があります。
他方、抱っこひもを外すと赤ちゃんが転落して死亡する可能性がある状況で、赤ちゃんを殺そうと抱っこひもを外した、というケースでは、殺人未遂罪に当たり得ることとなります。ただ、こうした事件で殺人罪や殺人未遂罪に問われるのは、ごく限られたケースになると考えられます。
また、民事上の損害賠償責任は、抱っこひもを外されたがけがをしなかった場合には、具体的にどのような損害があったのかによって損害賠償請求できるかが決まります。単なる不安感などでは、慰謝料請求は認められにくいのが現状です」
Q.「故意に抱っこひもを外そうとしたが、外せなかった人」に対しては。
井上さん「このケースでは、暴行罪や殺人未遂罪などの刑法上の責任を問うことは難しいと考えられます。抱っこひもを外すと、赤ちゃんが転落して死亡する可能性がある状況で、赤ちゃんを殺そうと抱っこひもを外したものの外せなかった場合、『人を殺す具体的危険のある行為を始めた』(実行の着手)として殺人未遂罪で検討できなくもないですが、現実問題としては殺人未遂罪に問うことは難しいと思います。
民事上の責任も、具体的損害が生じたといえるかどうかで、損害賠償請求できるかが変わってきます。抱っこひもを外したが、赤ちゃんがけがをしなかったケースと比べると、さらに慰謝料請求は認められにくくなります」
Q.このような悪質な事件に巻き込まれたり、現場を目撃したりした場合、望まれる行動・対応とは。
井上さん「抱っこひもが簡単に外されないような工夫をしておくことが、何より大事です。抱っこひもを外してくる人が周囲にいると思いたくはないですが、このような事件が起きている以上、自分が事件に巻き込まれてからでは手遅れとなるので、自衛の措置を取っておいた方がよいでしょう。
また、現場を目撃した場合、『危ない』『すみません』など、注意喚起の言葉を掛けるなどの行動や対応ができればよいですね。落ちそうになっている赤ちゃんを支えることができるのであれば、そのような行動を取るのもよいですが、実際にはなかなか難しいと思います。一言声を掛けるだけでも、事件を未然に防いだり、赤ちゃんの落下を防いだりできる場合があるのではないでしょうか」
(オトナンサー編集部)
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