海外旅行先で頼まれ、荷物を日本へ…違法薬物やコピー品だったら、法的責任は?
「手荷物が重量オーバーしたので、代わりに持ってほしい」。空港で見知らぬ人から、こう頼まれたという体験談が話題になっています。

「手荷物が重量オーバーしてしまったので、私の代わりに持ってほしい」
空港で見知らぬ人に、このように声を掛けられたという体験談がネット上で話題になっています。これに似た体験談もネット上で複数見られ、海外旅行先で知り合った人から、「日本にいる友達に渡してほしい」「スーツケースに荷物が入り切らないので、同じ便に乗るあなたの手荷物に加えてほしい」などと物品を渡されるケースがあるそうですが、それらが麻薬や覚醒剤、ブランド品のコピーなどの密輸品の場合、知らないうちに“運び屋”にされてしまう可能性があります。
ネット上では、「怖すぎる」「もし引き受けたら逮捕されるの?」「国によっては死刑もあるのでは」などの声が上がっています。海外旅行先で注意したい「手荷物預かり」の法的問題について、グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。
関税法や麻薬取締法違反も
Q.海外旅行先で「預かってほしい」と頼まれた荷物のうち、罪に問われる可能性があるのはどのような物でしょうか。
井上さん「ブランド品のコピー商品など商標権を侵害する物品▽麻薬・覚醒剤などの違法薬物▽拳銃などの武器――などです。これらを日本国内に持ち込んだ場合、関税法違反の罪に問われる可能性があります。違法薬物の場合は関税法に加え、麻薬および向精神薬取締法(麻薬取締法)違反などの罪に問われる恐れもあります。
もし、輸入してはならない物が自分の荷物から発見された場合、関税法違反などを疑われ、逮捕される可能性があります。もっとも、これらの犯罪が成立するためには単に、輸入してはならない物を国内に持ち込んだ事実だけでなく、このような事実を知っていた(=故意があった)ことが必要です。つまり、悪いことだと分かっていながら行った場合に、犯罪に問われることとなります」
Q.荷物の中身が違法な物でも、預かった人が中身を知らない場合、罪に問われないということでしょうか。
井上さん「海外の旅行先で、全然知らない人に荷物を預けたり、預かったりすることはまず考え難いです。むしろ、『犯罪になるようなことをしているのではないか』と思う方が普通でしょう。そのため、『自分は荷物を預かっただけで、中身については知りません』などの弁解は聞き入れてもらえないことが多いです」
Q.「預かってほしい」と頼んだ側が、発覚時にしらを切るケースもあるようです。この場合、預けた側を逮捕することや、罪を問うことは可能でしょうか。
井上さん「預けた人を逮捕したり、罪に問うたりするには、預けた人が犯罪を行っていることが必要です。例えば、預かった人を道具のように使って犯罪を実行する場合や、預かった人と一緒になって犯罪をする場合などで、預けた人と預かった人はどのような関係なのか、荷物の受け渡しの際にどのようなやりとり(報酬の授受など)があったのか、といった諸事情を考慮して判断されます。
預けた人は、犯罪に当たる行為であることを知っているでしょうから、『そんなものは知らない』『頼んだ覚えはない』などとしらを切るケースが多いでしょう。その場合、例えば、預けた人の指紋が荷物に付いていた▽荷物の受け渡しの様子が防犯カメラ映像に残っていた▽預かった人から話を聞いた――などの証拠から、『預けた人にも犯罪が成立する』かを判断することになります。
預けた人が違法な物品の輸入に加担していた場合、預かった人と同様、関税法違反や麻薬取締法違反などの罪に問われる可能性があります」
Q.違法な物品を「気付かないうちに自分の荷物に勝手に入れられた」ケースではどうでしょうか。
井上さん「先述の通り、関税法違反などの犯罪が成立するためには、犯罪をしていると知っていることが必要です。そのため、気付かないうちに荷物に勝手に入れられた事実が認められれば、犯罪をしていることを知っていたとはいえず、犯罪に問われないこととなるでしょう」
Q.逮捕された場合、出国先・入国先どちらの国の法律で裁かれるのでしょうか。
井上さん「それぞれの国の法律の規定によりますが、例えば、麻薬などの違法な物品を持ち込んだことが日本で判明した場合、日本の法律で裁判が行われます。日本以外の国で判明した場合は、それらの国の法律で裁判が行われます」
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