献花するファンも…報道で三浦春馬さん自宅特定、マスコミの法的責任は?
芸能人や著名人のプライバシーに関する情報をSNS上などで公開した場合、法的責任を問われることはあるのでしょうか。

7月18日、俳優の三浦春馬さんが都内の自宅マンションで死亡しているのが見つかり、マスコミ各社が連日、大きく報道しています。三浦さんの自宅付近でテレビ中継や取材を行う社もあり、一連の報道や取材が影響したのか、翌日には、マンション前で花を手向けるファンもいました。これについてネット上では「迷惑」「(マスコミが)マンションの写真を公開するから」など否定的な意見が目立ちます。
一連の報道により、三浦さんの自宅が特定される形になったともいえますが、報道についてマスコミが法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。また、関係者がSNS上などで、芸能人や著名人のプライバシーに関わる情報を公開した場合はどうなるのでしょうか。グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。
損害賠償請求訴訟は可能
Q.芸能人や著名人が報道などで不特定多数の人に自宅を特定された場合、マスコミ各社を相手取って訴訟を起こすことは可能なのでしょうか。
井上さん「プライバシー権の侵害を理由に、損害賠償請求訴訟などを起こすことが可能です。芸能人や著名人としてテレビに多く出演する人に対して『彼らにプライバシーはない。私生活が広く公開されても仕方がない』などの話を耳にすることがあります。確かに、芸能人や著名人の活動には社会の関心事であることも含まれるため、一般の人の私生活とは同等に考えられない側面もあります。
ただ、芸能人や著名人も、その活動を離れたところでは、一般の人たちと同じように私生活があり、このような私生活に関する部分については、みだりに公開されない利益が法的に保障されています。
一方、マスコミ各社が芸能人や著名人を取材したり、報道したりすることについても、取材の自由、報道の自由として法的に保障されていると考えられています。そのため、芸能人や著名人のプライバシーの利益とマスコミの取材・報道の利益とを比較して、プライバシーの利益の方が優越する場合、マスコミは損害賠償責任などの法的責任を問われることになります。
例えば、マスコミ各社が芸能人や著名人の自宅住所などを特定するような報道をした場合、その報道によって芸能人や著名人の自宅住所が公開されたことになります。その結果、興味を持った人たちが自宅に押し寄せるなど生活の平穏を侵され、引っ越しを迫られることもあります。
たとえ報道といえども、芸能人や著名人の生活の平穏を犯してまで、その自宅住所を公開する必要性が認められる可能性は低いと考えられるため、前述の報道により、芸能人や著名人が引っ越し費用や精神的苦痛などの損害を被った場合、マスコミ各社に対しその損害について賠償請求できるでしょう」
Q.例えば、芸能人・著名人の自宅マンションの関係者やファンがSNSなどで、その自宅の情報を公開したり、マスコミの取材で芸能人・著名人のプライバシーに関する情報を提供したりした場合、法的責任を問われる可能性はありますか。
井上さん「損害賠償責任などの法的責任を問われる可能性があります。芸能人や著名人の自宅マンションの関係者が彼らの自宅情報をSNS上で公開する行為は、不法行為(民法709条)に当たるため、自宅情報の公開により被った損害について賠償責任を問われることになります。
さらに、それがマンション管理会社の社員であった場合、その社員は、会社の業務によって知り得た情報、または不正に取得した情報をSNS上で公開したとして、会社から懲戒処分を言い渡されるだけでなく、会社が被った損害についても賠償する責任を問われる可能性があります。
また、マスコミ各社の取材に対し、芸能人・著名人のプライバシーに関する情報を不必要に提供した場合、不法行為として損害賠償責任を問われる可能性があります。そのため、不用意に取材に応じず『取材者の身分』『取材の意図、目的』『取材した内容をどのように使うのか』などを確認した上で、取材に応じるか、どこまで話すのかを慎重に判断する必要があります」
他人の情報を扱う際の注意点
Q.マスコミ各社が事件現場などでテレビ中継や取材活動を行うことで、法的責任を問われるケースはありますか。例えば、私有地で無断撮影や取材を行った場合、どのような責任を問われるのでしょうか。
井上さん「マスコミが私有地に無断で入り撮影・取材をした場合や、玄関先で住民から帰るよう要求されたにもかかわらず帰らない場合、住居侵入等の罪(刑法130条、3年以下の懲役または10万円以下の罰金)に当たると考えられ、刑事上の責任を問われる可能性があります。もっとも、災害取材や緊急時など、マスコミの撮影・取材に正当性がある場合、『正当な理由がある』として、例外的に刑事上の責任を問われないこともあります」
Q.他人に関する情報を扱うときは、どのようなことを心掛ける必要があるのでしょうか。
井上さん「SNSなどが発達したことで、一般の人も自由に情報発信ができるようになった一方、他人の権利を侵害する場面も増えたといえます。他人に関する情報を発信する際は、他人のプライバシー権などの権利を侵害することにならないか十分に注意するとともに、その情報を本当に発信する必要があるか十分に考えてください。
他人のプライバシーに関する情報を発信する必要があるケースは、一般人の場合、あまり多くないと考えられるため、基本的にはそのような情報を発信することは避けた方がよいと思います。どうしても他人のプライバシーに関する情報を発信する必要がある場合、その情報発信によってその人がどのような不利益を受けるのかを考えるとともに、自身の情報発信が他人のプライバシーの保護に優先する利益があるといえるのかを慎重に検討した上で、情報発信をする必要があります。
実際にプライバシー権の侵害に当たる行為かどうかは、相手の属性(公人か一般人か)、発信する情報の内容などの諸事情を検討して判断することになりますが、一つの基準として『自分がその情報を公開されても構わないか』によって判断することができるかと思います」
(オトナンサー編集部)
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