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激怒して食缶をひっくり返す…過剰な「完食指導」をなくすため、学校に今求められること

最後まで給食を食べるように指導される「完食指導」が過剰になり、体調を崩したり、不登校になったりする児童生徒がいます。完食指導はなくせるのでしょうか。

過剰な「完食指導」をなくすには?
過剰な「完食指導」をなくすには?

 学校給食を残さず食べるように強引に指導する「完食指導」で、指導が過剰になって体調を崩したり、不登校になったりする子どもがいます。さらに、それが原因で「会食恐怖症」という精神疾患になるケースもあります。

 筆者も会食恐怖症を経験した一人です。克服しましたが、同じような悩みを持ち、苦しんでいる人を少しでも助けられればと、一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会を設立して、生徒・保護者と教師の両方から、給食指導や会食恐怖症についての相談を受けています。過剰な完食指導をなくすために、学校側ができることは何なのかをご説明します。

多くの教師が文科省の手引を知らない

 筆者は、学校給食の過剰な完食指導や会食恐怖症についての相談会を定期的に行っています。先日、開催した保護者向けの相談会では、「担任の教師が給食の過剰な完食指導を行うため、子どもが登校することを渋るようになった」というお母さんが複数参加していました。

 完食指導といっても、筆者が相談を受ける事例は「全員が全て食べ終わるまでお昼休みはなし」「食べないことに激怒し、食缶(給食を保温して運搬する容器)をひっくり返す」「牛乳が飲めない子に、授業そっちのけで5時間目もずっと牛乳を机に置く」など、時代錯誤と言わざるを得ない“過剰な指導”がほとんどです。そして、保護者の中には、自分の子どもが受けたこうした過剰な指導について、涙を流しながら話す人もいます。

 もちろん、時代の流れからすると、全体的にはそうした過剰な指導は徐々に減っているとは思います。しかし、いまだにこうした指導が行われているケースを聞くと、とても残念な気持ちになります。

 では、どうすれば過剰な完食指導をなくすことができるのでしょうか。筆者は、教師や学校側でできることが、まだまだあるのではないかと考えています。実は、給食時の児童生徒に対する指導方針を文部科学省が定めた手引があるのですが、それを教師が知らないケースが多いというのです。

 この手引は「食に関する指導の手引(第2次改訂版)」といいます。その中に「個別相談」という項目があり、給食を食べられない児童生徒への改善を促す指導を行うときの留意点として、以下の9点を挙げています。

(1)対象児童生徒の過大な重荷にならないようにすること
(2)対象児童生徒以外からのいじめのきっかけになったりしないように、対象児童生徒の周囲の実態を踏まえた指導を行うこと
(3)指導者として、高い倫理観とスキルをもって指導を行うこと
(4)指導上得られた個人情報の保護を徹底すること
(5)指導者側のプライバシーや個人情報の提供についても、十分注意して指導を行うこと
(6)保護者を始め関係者の理解を得て、密に連携を取りながら指導を進めること
(7)成果にとらわれ、対象児童生徒に過度なプレッシャーをかけないこと
(8)確実に行動変容を促すことができるよう計画的に指導すること
(9)安易な計画での指導は、心身の発育に支障をきたす重大な事態になる可能性があることを認識すること

 基本的には、この9点が守られているのであれば、会食恐怖症や、給食をきっかけとした不登校などの大きな問題にはならないはずです。しかし、現状としては「手引に目を通したことがない」と話す教師も多いようです。

 毎日、多忙な教師からすれば、「そんな余裕がない」というのが正直なところかもしれません。だからこそ、職員会議などの時間を使い、学校全体でこういったことを確認・共有する機会を設けるべきだと思います。

 また、保護者から児童の給食に関する相談を受けた場合は、なるべく柔軟に対応してほしいと思います。クラスの残飯を気にするよりも先に、生徒の健康を気にすべきです。それができている前提での「完食率」なのではないでしょうか。

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山口健太(やまぐち・けんた)

一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事

盛岡市出身。2017年5月、一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会(アドバイザー・田島治・杏林大学名誉教授)を設立し、代表理事を務める。薬を使わずに「会食恐怖症」を克服した自身の経験を生かし、会食恐怖症に悩む人へのカウンセリングを行っている。相談実績は年間延べ1000件超。学校や保育所への給食指導コンサルティング活動、食べない子に悩む保護者の食育相談や、それをテーマにした講演・研修も行う。著書に「会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと」(内外出版社)など。

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