桜田義孝氏「3人産んで」発言に批判…妊娠・出産する女性のリスクを正しく知ろう
元大臣の「子どもは最低3人くらい産んでほしい」という発言が猛烈な批判を浴びました。妊娠・出産には「ドクターストップ」がかかることもあるからです。

大きな批判を集めた、桜田義孝・前五輪相による「子どもは最低3人くらい産んでほしい」発言。妊娠や出産時に危険な状況に陥ったり、親族や友人に心ない言葉を掛けられたりするなどの体験をした人たちからも、厳しい声が上がりました。妊娠・出産を巡っては、出産時に母親が命を落とすケースや、妊娠するたびに体調が悪化し、医師から「もう妊娠はしないように」とストップがかかるケースもあるようです。
ネット上では「出産のときに生死の境をさまよった友人がいます」「産みたくても産めない事情を抱えている人だっている」「子どもを産む人数を決められるのは、命がけで出産するお母さんだけです」など、さまざまな声が上がっています。妊娠・出産が女性の体にもたらすリスクについて、産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。
「妊産婦死亡率」は世界的に低い日本
Q.出産時に母体が危険な状態になるケースは、実際に多くみられるのでしょうか。
尾西さん「日本は、妊娠中と産後42日以内に死亡した割合を示す『妊産婦死亡率』が10万人中33.4人(2016年の人口動態統計)と世界的に見ると非常に低いです。しかし、私自身、出産時に死の危険に直面した妊婦さんを何人も見てきました。死亡率の低さから、日本では『妊娠・出産は常に危険が隣り合わせ』ということを忘れがちですが、『全く別世界の話』というわけではありません」
Q.出産時に母親が命を落とすケースについて、その要因はどのようなものでしょうか。
尾西さん「2010年から2016年の統計によると、出産時に母親が命を落とす原因で最も多いのが『多量出血』、以下『脳出血』、羊水が母体の血管に入り込み、詰まることで全身症状が起きる『羊水塞栓(そくせん)』と続きます。これらの原因は多くの場合、事前にリスクを判断できません。また、こうした症状は何事もなく出産した直後にも起き得るため、赤ちゃんが無事に出てきてもまだ安心はできません」
Q.妊娠・出産の回数にドクターストップがかかることは、実際にあるのでしょうか。
尾西さん「もともと、母親に持病がある場合と、以前の妊娠・出産の際に問題があった場合については、その後の妊娠・出産にストップをかけることがあります。持病があるケースでは、母親が妊娠前から心臓病や腎臓病、糖尿病、膠原(こうげん)病、がんなどで病状をコントロールできておらず、妊娠することで母体と赤ちゃんのどちらか、または両方に危険が及ぶ可能性がある場合に判断されます。この場合はしっかりと治療を受け、主治医と相談して妊娠を計画することは可能です。
以前の妊娠・出産の際に『妊娠高血圧症』が重症化した場合や、帝王切開を3回行っている場合などは、次の妊娠時に母体・赤ちゃんの危険が予想されるので、ストップを勧めることがあります」
Q.親族や友人から「兄弟がいないとかわいそう」「もう一人産むべき」などと言われて、つらい思いをしている女性も少なくないようです。
尾西さん「一般的に、日本では出産に対して『安全神話』が根強いため、妊娠・出産のリスクはあまり考えずに話をする人が多いのでしょう。また、親族や友人は、自分自身や自分の家族を基準に話をしてしまうので、つい『もう一人』という発言をしてしまうのだと思います。私自身も周囲に言われ、悪気がないのは分かっていても良い気持ちはしませんでした。
『2人目不妊』や持病などで、なかなか思うように妊娠できない女性が多くいるのは現実です。こうした女性は、周りからのプレッシャーがストレスになって妊娠しにくくなることもあるので、本当はそうした女性を思いやることのできる社会環境をつくるのが一番です。しかし、社会が変わるのはとても時間のかかること。まずは、本人があまり周囲の声を気にせず、自分の体調や周囲の環境を考えて家族計画を進めていくことが重要だと思います」
(オトナンサー編集部)
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