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ピル処方時の検査めぐり「採血は安心」「問診だけでいい」などの声、必要性を医師に聞く

避妊以外にもさまざまなメリットがある「低用量ピル」ですが、処方時の診察などにはばらつきがあり、副作用を心配する声もあります。

ピル処方時の検査の必要性とは?
ピル処方時の検査の必要性とは?

 避妊効果をはじめ、生理痛の緩和やニキビの改善など、女性の体にさまざまなメリットがある「低用量ピル」。現在、日本でピルを手に入れるには、婦人科・産婦人科で医師の診察を受け、健康状態を確認する必要がありますが、ピル処方時の診察内容や処方後の定期的な通院・検査の実施状況などは、病院によってばらつきがあるようです。

 ネット上では「処方時に採血したので安心だった」「定期的な診察がなくて副作用で倒れたことがある」「正直、面倒だから問診だけがいい」など、さまざまな声が上がっています。ピル処方時の検査の必要性について、産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

血圧測定などがある病院は安心

Q.そもそも、低用量ピルとはどのような薬でしょうか。

尾西さん「低用量ピルは、日本では2種類に分類されています。避妊を主な目的とするものを『OC(oral contraceptive)』、生理痛などの月経困難症の改善を目的としたものを『LEP(low dose estrogen and progesterone)』と呼んでおり、目的によって健康保険の適用・非適用が異なります。

どちらも『卵胞ホルモン』『黄体ホルモン』という2種類のホルモンを含有しており、排卵の抑制に加え、月経周期のコントロール、月経量の減少、月経痛の改善、PMS(月経前症候群)の症状改善などの効果があります。OCとLEPは、成分上はほぼ同じですが、ともに多くの種類が発売されており、製品によって含まれる卵胞ホルモンと黄体ホルモンの種類が少しずつ異なるため、むくみの出やすさやニキビの改善効果なども異なるという特徴があります」

Q.ネット上では、副作用のリスクも話題になっています。

尾西さん「副作用については『血栓症が不安』という声をよく聞きます。血栓症とは、血管に血の塊が詰まり、肺塞栓症や深部静脈血栓症、心筋梗塞や脳梗塞を起こす病気です。発症の確率としては1万人のうち、何も飲んでいない人は年間1~5人、ピルを内服している人では3~9人とされ、確かにピルを内服する人の方がリスクは上昇します。

ただ、女性の場合は妊娠・出産後に血栓症のリスクがぐんと上がります。同じ1万人で比較すると、妊娠中は5~20人、産後12週では40~65人と急増します。それと比較すれば、ピル内服による血栓症はまれであるといえるでしょう。ただし、ピルを内服したことで死亡した事例もあるため、予防や早期発見に努めることは重要です。

その他の軽微な副作用では、ピルの飲み始めの時期に吐き気や不正出血が見られることがあります」

Q.ピルの処方が認められるための条件はありますか。

尾西さん「一般的に避妊目的のOCは自費のため、希望すれば処方してもらうことができます。一方で、治療目的のLEPは保険適用となるため、基本的には月経困難症の症状がある人にのみ処方されます。

ただし、ピルを内服することで医学的なリスクが上昇すると考えられる人には処方ができません。例えば『35歳以上でたばこを毎日15本以上吸う人』や重度の高血圧症の人、前兆を伴う片頭痛のある人、静脈血栓症の既往歴のある人などが該当します。

なお、ピルの処方は初経が始まっていれば可能と考えられていますが、身長の伸びが止まる可能性があるといわれているため、主治医と相談の上で処方してもらいましょう」

Q.病院でピルを処方するまでの基本的な流れを教えてください。

尾西さん「ピル処方前の検査・診察については病院によって異なり、避妊用のピルなどは婦人科でないところで処方されたり、最近はインターネットで購入できたりもするようです。診察なしで処方してくれるところは便利だと思いがちですが、やはり女性ホルモンの薬なので、血圧測定と問診、可能ならば内診や採血を行ってから処方してくれる病院が安心です。そうした病院の方が、血栓症が疑われる症状が出た場合の対処もきちんとしてくれるでしょう」

Q.初回処方時、具体的にどのような診察・検査を行うのでしょうか。

尾西さん「問診では、ピル内服ができない既往歴や喫煙歴、家族歴の有無などを伺います。また、血圧を測定し、高血圧がないか確認します。これら以外の内容は病院によりますが、月経痛の原因となる子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋症がないかを超音波で診ることもあります。

また、希望があれば子宮頸(けい)がん検診、性病の検査なども行うことができます。婦人科に行く機会はあまりないでしょうから、ピル処方をきっかけに婦人科検診も一緒に行うと安心です」

Q.ピルを希望する女性の中には「簡単な問診だけで処方してほしい」と考える人もいるようです。

尾西さん「婦人科医の観点からすると、お勧めできません。ピルはれっきとした女性ホルモンの薬です。少し面倒かもしれませんが、『どのような効果があるのか』『本当にあなたにとって必要か』を確認し、また、不正出血や血栓症などの副作用についてきちんと話してくれる病院の方が、万が一何か問題があったときの対処もきちんとしてくれるので安心です」

Q.ピルを適切に処方する病院を見極めるポイントは。

尾西さん「初回から、または一度に多量のピルを処方する病院はお勧めできません。きちんと定期的に通院し、血圧や問診を受ける方がよいでしょう。病院によっては、副作用の確認のために血液検査や乳がん検診を行うこともありますが、そうした検査は安心して長く飲み続けるために必要なものです。

また、月経困難症の治療目的で内服している場合は、病気が進行していないかなどのチェックの他、妊娠を希望する場合の相談もできます。ピルの処方をきっかけに、将来にわたっての健康を考えた処方をしてくれるパートナードクターを探してみましょう」

(オトナンサー編集部)

尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(神谷町WGレディースクリニック院長)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性の全ての悩みに応えられるかかりつけ医として、都内の産婦人科クリニックに勤務。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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