自閉症の息子は「言葉が出ない」「おうむ返しばかり」…悩み続けた母を救った“息子の一言”
なかなか言葉が出なかった自閉症の息子と、必死に言葉を引き出そうとした母。親子に変化が訪れるきっかけとなった、飲食店での息子の“一言”とは――。

自閉症で言葉が出ない子どもを育てる親にとって、「言葉が出るかどうか」は気になるところです。なぜ言葉が重要視されるかというと、人は、言葉を使って相手とコミュケーションを取り、人間関係をつくっていくものだからです。
ただ、「言葉」や「単語」を単体として捉えて、そればかり引き出すことに親がこだわっていても、なかなかうまくいかないことがあります。
子育て本著者・講演家である私も、かつてはそうでした。24歳になる、知的障害を伴う自閉症の息子がいるのですが、息子は5歳まで言葉が出なかったので、私は単語を教えようと必死でした。でも、言葉を増やそうとすればするほど、やたら“おうむ返し”が増えるだけでした。
例えば「葉っぱ」という言葉を教えたいとき。
母「これは葉っぱよ、葉っぱ」
子「これは葉っぱよ、葉っぱ」
母(怖い顔になり)「そうじゃなくて、葉っぱ!」
子「そうじゃなくて、葉っぱ」
母(さらに怖い顔になり)「葉っぱ!」
子「葉っぱ」
ここまでやりとりして、「やっとできるようになった」とホッとします。
でも、私が「お名前は何ですか」と聞くと、息子は「お名前は何ですか」と答える“おうむ返し”状態でした。そこで、「立石勇太(仮名)でしょ!」とイラついて教えると、「お名前は何ですか、立石勇太です」と相手の言葉も付け加えて答えてしまう状態でした。また、「名前を教えてください」と異なる聞き方をされると、途端に答えられなくなってしまっていました。
中学生になると、おうむ返しをすることはほぼなくなりましたが、息子とタクシーに乗ったとき、運転手さんに「僕のお名前は?」と聞かれた息子は、「すずきこういち」とタクシーの運転手のネームプレートを読み上げました。
自分とは違う他者の立場に立って考える“心の理論”の獲得、つまり「相手の立場を想像すること」がなかなかできないので、質問を字面通り受け止めて答えていました。そのため、“人と人との会話”にはなかなか発展しませんでした。
「関わりたい気持ち」が育って言葉が発達する
たとえ英単語を数多く知っていても、「外国の人と関わりたい」という気持ちが少ないと、英会話はなかなか上達しないものです。
自閉症の子が「友達と関わるより、石ころや国旗、数字と戯れたい」と思っている状態のときは、単語をたくさん教えてもコミュニケーションには至らず、単語が増えるだけになったり、おうむ返しが定着してしまったりすることがあります。
リンゴの品種を「王林、ジョナゴールド、シナノスイート、世界一、富士…」と唱えていても、「ねえねえ、お母さん、今日は電車に乗ってお出かけしたい」とか「お母さん、このリンゴおいしそうだね。買って~買って~」とはなかなか言ってくれません。
しかし、息子が5歳のとき、うどん店でこんなことがありました。
わずか1センチほどのうどんの切れ端が残っている器を、店員が下げようとしました。そのとき、よほど「最後まで食べたい」という強い動機があったのでしょう。息子は「まだ、食べる!」と叫びました。そして、店員は慌てて器を戻しました。まさに“会話”でした。
この経験をきっかけに、息子は「要求をかなえるためには『言葉』という便利なものがあるんだ」と理解したようで、例えば「カレーライス食べたい」のような、相手に要求する言葉を発するようになっていったのです。
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